第17話 そんなに頻繁に 握っちゃダメだよ。優君

 優君大丈夫かな?

 しきりに頭を振る優君。


 やはりいつもの優君と、違って見えます。


 もちろん、さりげなく優しい所は変わらないです。


 


 だけど、何があっても冷静。

 ちょっとした事では驚かない。

 

 それがいつもの優君です。


 


 まあ、今回の事はちょっとしたことではないのかもしれませんが。


 こんな風な優君、なんだか、いつもは守られてばかりの自分だけど、こんな彼なら、自分でも力になれるかもしれない。


 そう私は思いました。


 



 そんな時です。

 私は、何処からか声が聞こえてきている事に気がつき、耳を澄ませました。



 高すぎず低すぎず、中性的な心地良い声。


 始めは音としてしか聞こえず、何を言っているか分かりませでしたが、だんだんと何を言っているのか聞き取れる様になってきました。



『おい、君』


 何なのでしょう?

 

 その中性的な音の様な声、発音が不安定な現実離れした声に、私は呼ばれているようです。


 私はキョロキョロと辺りを見渡します。


 身体が引っ張られる様に、声の方に引き寄せられ優君の手を離そうとした時、ガシッと優君に再び掌を握られました。



 ゆ、優君っ。



 優君には何でもない事かも知れないけど、私は友達もいないし、手はお母さんとしか、繋いだ事がないんだよ?



 あっ、本当に幼い頃、優君とよく手を繋いでたけど、そんなの、すっごく昔だしっ。


 あの時は何処に行くのもいっつも一緒で幸せだったけど。


 そんな事を考えていた私ですが、優君から手を握られている事実を再確認してしまい、体温は徐々に上がっていきます。 

 

 腕から始まり、胸、頬と、少しずつ身体が熱くなっていきます。


 


 とにかく、そんなに頻繁に握っちゃダメだよ。



 免疫が少ない私には、刺激が強すぎるよ。





『おい、君、君だよ。そこの女の子よ』


 知らない。


 何かが話しかけてきますが、私は今はそれどころではありません。


 優君の事で私の頭は、いっぱいいっぱいです。


 私の身体がどんどん熱くなっていきます。


 きっと顔は真っ赤だと思います。



 だけど優君にも、この声、聞こえているのかな?


 だから危ないと思ってくれたのかな?



『そこまで相手にされないと悲しいのだが......。うむ』


 その人? がその言葉を発したと同時にキラキラして、周りを飛んでいたモノが私達の目の前に集まり始めます。

 キラキラしていたモノは液体だった様で、その水の粒の様なモノが一気に集まり水しぶきが飛びます。


 その透明な水の粒に色々な光が反射し、とても眩しく、だけど見惚れてしまう程、綺麗です。



 その水状のモノの集合体は少しずつ形になり、人の姿になっていきます。

 そして顔の輪郭、身体がはっきりしてきました。    

 

 その姿は少年の形でした。


 水でできた少年と言った感じて、ゆらゆらと形状されたモノが揺れていますが、ちゃんと色は付いています。


 が、少年はやはり水の様な感じで、後ろにある木々が透けて見えます。



 そして、その少年の周りを取り囲んでいた水が消え、だんだんと少年の肌や服、髪の色が濃くなり、気がつくと、私の目の前には私と同い年くらいの少年が立っていました。


 



 私は不思議なモノを見ている様で、惚けた様に、その水の様なモノから普通の人の様になって行く所を見つめていました。



「ワン、ワン、ワンッ」

 かなり存在感が無かったですが、私達の足元をクンクンしたりウロウロしていたチビが、いきなりその少年に向かって吠えたので、私は我に返りました。



 優君を見てみると、優君はまたフラフラと揺れている様です。

 顔が赤い?

 目の焦点があってない?

 何処を見ているの?

 大丈夫かな?


 優君の事が心配になりながらも、私はその少年の方をチラッと見ました。



 少年は優君より、ちょぴっとだけ背が高くて、女の子みたいにまつ毛が長く、目も大きくです。

 髪の毛は金か、薄い白の様にキラキラしていて、この世のモノとは思えない、と言っても嘘じゃ無いくらい綺麗で、物語に出てくる、天使様みたいでした。


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