第13話 はー。......色々と危なかった。(優 視点) 

 枝に囲まれたトンネルはまだまだ続いていた。


 変わらず、手が届くぐらい近くを歩いていた。

 俺が少しだけ顔を下げたら、知羽ちゃんの可愛らしいつむじが、すぐ目の前に見えている。

 知羽ちゃんの髪の香り、後、この良い香りは柔軟剤かな?


 頑張って平常心を保つのは中々辛い。


 今、喋るチャンスなんだろうけど、上手く喋れないな。


 小さな頃は本当に何でも話せたのに。


 昔に戻りたい。



 そう思う事もある。



 自分が引き起こした事だか、昔みたいに一緒に居れなくなって、少し後悔していた。



 それにしてもチビはこんな歩きにくい所でもスタスタ歩くなー。

 さすが犬だな。


 知羽ちゃん、かなり引っ張られてついていくの必死といった感じだな。


 全然、前も足元も見ていない。


 というか、余裕がなくて周りが見れないと言う感じか......。


 そうじゃなくても知羽ちゃんは何もない所で転ぶくらいなのに。


 俺は危機感を感じ、なるべく知羽ちゃんの近くを歩いた。



 とその時、やはり思っていたとおりだ。


 知羽ちゃんが前につんのめり転びそうになっていた。


 危ないと思った俺は後ろから知羽ちゃんのお腹から抱き抱え上げる様に支えた。


 柔らかい。

 頭の中が知羽ちゃんの柔らかさで支配されそうになったが、



「ちょっ、ちゃんと前や、足元見てるか? 危ないだろう?」


 そう言って、何とか冷静さを保ち、知羽ちゃんの体制を整えた後、手を離した。


 あ、危なかった。



 そのまま、我を失う所だった。



 思ってた通り、柔らかかった。


 あんなに密着するなんて、心の準備、全然、できてなかった。



 俺の顔、赤いだろうか。



 この心臓の音、聞こえるんじゃないだろうか?



 いや、まだ大丈夫だ。

 知羽ちゃんは気付いていない。


 知羽ちゃんもなんか、顔赤いな、びっくりしたんだな。



「ワンっ、ワンっ、ワンっ」




 チビが急に吠え、びっくりした俺は身体が跳ね上がりそうになった。


 俺の頭の中をチビに覗かれ、注意されたような気分になったのだ。


 知羽ちゃんを守るという意味で、俺とチビは相棒でありライバルのようなモノだな。

 


 だけど、全然違ったみたいだな、チビの嬉しそうな姿に安心し、先を見ると出口が見えてきたみたいだ。


「おっ、やっと出口か? 幅は、小さいのに、やけに長いトンネルだったな」


 俺は出口のその先が危なくないかと、身を乗り出す。


 俺が覗きこんだ所は知羽ちゃんの頭と肩の間、丁度、頬が真横にある所だった。


 ヤバイ、俺、無意識になんて行動を、このまま横を向くと、知羽ちゃんのマシュマロの様に柔らかそうな頬に俺の唇が当たってしまいそうだ。



 俺は、どうにも動けず固まった。

 


 その時、枝のトンネルの出口の向こうから見たことのない幻想的な光が見えた。


 俺はあまりに見たことのないような優しい光に包まれた気がして、現実なのか夢なのか分からなくなった。



 もしかして俺の願望がそのまま夢に出てきたんじゃないだろうな?



 俺は目の前の知羽ちゃんが現実に存在しているのか夢なのか分からない様な錯覚におちいり、知羽ちゃんの肩に触れた。



 と同時にビクッ! と知羽ちゃんがすごく驚いた様に身体を跳ねさせた。



「あ、わりぃ」

 


 そう言って俺は慌てて知羽ちゃんの肩から手を離した。



 やはり、現実だった。

 

 ドク、ドクッとなる心臓を抑え、俺は気づかれない様に軽く深呼吸して息を整えた。


 はー、......色々と、危なかった。

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