第10話 優君との至近距離

 優君の息遣いを背中に感じ、私は足を前に進めます。


 チビは呑気に木の枝の匂いをクンクンと嗅ぎながら、はち切れんばかりに尻尾を振り、前に進んで行きます。


 木の枝のトンネルは結構長く続きました。

 両隣にあったブロック塀はもう見当たりません。  

 いつの間にか両隣が木の枝に囲まれた状態になっていました。


 チビはどんどん進んで行ってしまい、私も周りを観察する余裕がありません。



 木の枝の葉が顔に当たりそうになったら優君が腕や手の甲でかばってくれます。


 その度に胸の動悸が激しくなります。


 


 あんまり遅くなったらお母さんが心配するかな?


 あっ、だけどテーブルにあったメモには、お母さん、今日は遅くなるって、書いてあったし、何かあったら、携帯に電話がくるよね。



 そんな事を思い自分の気をそらします。




 優君、腕も、もっと細かった気がするけど......。

 

 こんなに間近で優君の腕を見たのは、久しぶりです。

 

 私の腕より太くなってる、逞しくなってきてる。


 



 なんか、木の枝のせいでか知らないけど暑い。

 汗かいてきた。



 こんなに近くて、こんな汗かいて......。

 私、臭かったらどうしよう。


 


 動悸も治らず、顔も熱くなってきた気がしました。



 長い間、優君と、こんなに接触した事なかったから私の頭はパンクしてしまいそうでした。


 


 その時です。

 私は、木の根っこの様に足元まで伸びていた枝に、足が引っかかり、チビの散歩ヒモを持ったまま、前につんのめってしまいました。



 あっ顔から転んじゃう!


 そそっかしすぎる私!



 そう思っていたら、私のお腹の所に優君の腕があって、後ろから抱きつくように支えられていました。


「ちょっ、ちゃんと前や、足元見てるか? 危ないだろう?」



 そう言って優君は私の体制が整ったら慌てて身体を離しました。



 もう、ドキドキしすぎて心臓が壊れちゃうよ。




 そう思ってしまうくらいドキドキしました。

 

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