第8話 出来てしまった距離(優 視点)
大事な幼なじみとの下校。
知羽ちゃんの家の前に着いた。
「知羽ちゃん また明日ね」
そう言って手を振った後、俺は歩き出した。
歩き出した後、小さく息を吐き、足を進めた。
家の前につき、ちょっとだけドアに寄りかかり先程、手を振り返していた幼なじみの顔を思い浮かべていた。
俺 笹山 優 には大事な幼なじみがいる。
ずっと一緒に、ずっと近くで見てきた知羽ちゃん。
ちょっと鈍臭い知羽ちゃんの事を守るのは当たり前の事で、守れる事が俺は嬉しかった。
いつからだっただろう。
純粋に、ただ、純粋に守りたい。
そう思っていたのに。
俺の中で少しだけ、濁った気持ちが生まれた。
お人好しで優しくて、笑顔がとても可愛い知羽ちゃん。
だけど、恥ずかしがり屋で、俺以外とは中々会話できない知羽ちゃん。
俺だけが、本当の知羽ちゃんを知っている。
そんな事を思っていた。
きっかけは男友達の一言だった。
「お前、いつも一緒に帰る子って、クラスでちょっと地味な子だよな? よく見ると可愛いな。」
その時は適当な事を言って気をそらした。
だけど俺の心の声が、おもしろくない、そう呟いた。
点って、本当に小さなシミ程度だけど、俺の心に濁りが出来た気がした。
その日から俺は学校では知羽ちゃんを避ける様になった。
知羽ちゃんの良さに気がつく人を減らそうと、必死だった。
何故だか俺の周りには人が集まるから。
知羽ちゃんの事を気にしていたアイツにも適当な別の女の子を紹介して気をそらした。
だけど、知羽ちゃんと一緒に居たい気持ちもあった。
だから登下校だけは続けた。
昔は何でもかんでも喋れた知羽ちゃん。
今では沈黙の時間の方が長い。
でも最近、微妙に出来てしまったこの距離が、もどかしくて、沈黙がきつくて。
前に戻りたいと思う俺と、知羽ちゃんの事を独り占めしたいと思う俺が、俺の中で、せめぎ合っていた。
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