第5話 優君との距離

「ワンっ!」


 チビの声で我にかえりました。


 チビ、あの時も大きかったけど、もっと大きくなったよね。

 



 散歩バッグとリードを咥えて私をじっと見ています。


 私は、チビの顎の部分を撫でて、散歩バッグを受け取り、リードも装着しました。


 玄関のドアを開けると、ちょっと暗くなってきていました。


 チビと一緒に階段を下ります。


 チビはゆっくり階段を下りてくれます。

 

 私ももう6年生なので、そんなに危なくないのにね、チビは私の事を守らなくちゃと思っているのかな?



 階段を下りてゆっくり道路を歩きます。


 都会ではないので、そんなに車は多くありません。

 路側帯の中をチビが歩きます。

 電信柱、道路についたシミの跡、どこかのワンコがオシッコをした跡のシミでしょうか?

 チビはそこをクンクン嗅いでいます。

 尻尾を振りまくっているのでチビが喜んでいるのが伝わって、私も思わず嬉しくなります。



 私のアパートから、7軒先が優君の家です。


 優君、実は昨日、学校のお昼休みに、図書室で可愛い女の子から手紙を貰っているのを見ました。


 私は、優君と学校の行き帰りは幼い頃からずっと一緒でした。



 お母さん同士が親友だったので幼い頃は、お父さんの居ない私は優君の家でお母さんが仕事から帰って来るのを待つ事も度々ありました。



 だけど、歳を重ねていく事に、学校内で私と優君が会話する事は無くなっていきました。




 その日も図書室で見たと言っても、私は窓際の定位置である、隅の机で本を読んでいました。



 うちの学校の図書室はあまり人気がなくて、多くても5人、それ以外は私と図書室の当番の人ぐらいしか人はいない事がほとんどでした。



 可愛い女の子と優君が図書室に入ってきて、私のいる所と反対の隅である、本棚の裏の方に入って行きました。


 遠くてあまり見えなかったんだけど、何か手紙のようなものを渡しているのが見えました。


 なんだか、胸が少しチクッとしました。


 優君は人気者です。

 男の子の友達も女の子の友達もいっぱいいます。

 だけど、その時の優君の照れた様な表情は私は初めて見た気がして、なんだか胸がそわそわしたのです。


 優君達は私には気づいてなくて、私はこちらは見えないと分かっていたけど本を立てて顔を隠しました。


 隙間から優君達を見たい気持ちもあるけど私は目で目の前の文章を一生懸命おっていました。


 本の内容は全然頭に入ってきませんでした。





 チビがヒモを引っ張り私は現実に戻されました。

 私は考え事をする癖があります。


 幼い頃も何もない所で転びそうになり優君に助けて貰うのはしょっちゅうでした。



 

 優君の家の前を通り過ぎる時、音がしました。



 なんだろう?



 気になった私は、ちょっとだけ優君の家の庭を覗きこむと一人で壁に当てキャッチボールをしている優君と目が合いました。

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