スカイラウンジに舞う氷撃【フリーギドゥス・ヴェルベラーリ】
40階スカイラウンジへ向かって高速で昇っていくエレベーター。必要最低限な機動音だけが響く張り詰めた静寂の中で、ノエは胸元で両手を握りしめ、瑞穂へと語りかけていた。
「おそらく――40階に到着したら、すぐに先程のような防衛用の
ノエの説明に、瑞穂は手にした刀剣の柄を握りしめて、こくんと頷く。
その時、少女の背後で黙って佇んでいた少年が、おもむろに口を開いた。
「――で、俺は何をすればよい?
突如として響く若い男の声に、2人の少女は顔を上げる。声の主――先程まで翔真と呼ばれていたその少年は、金色に輝く瞳を動かし、じろりと見下ろすような眼差しをノエへと向けていた。
ノエは一瞬、ハッとしたように息を呑む。しかし、すぐに落ち着きを取り戻したかのように冷ややかな声で、金色の瞳の少年――覇王アシャへと応じた。
「
ちらりとだけ目線を合わせて礼を言うノエに、アシャはつまらなそうに、ふんと鼻を鳴らした。
「ヨツバとやらに襲われた件か――あの時の礼であれば俺ではなく、涙目で俺に助力を乞うてきた、そこの小娘にするがよい」
前触れもなく自分のことを引き合いに出されて、瑞穂は目を剥いた。
「なっ――!? 『涙目で』はさすがに話盛りすぎじゃないです――?」
瑞穂は少しばかり頬を赤らめて反論する。その声をさっくりとスルーしつつ、ノエはアシャへ話を続ける。
「それより覇王アシャ――
「ふん――無論だ。無限たる俺の力をもってすれば、四天王など恐るるに足らず――」
アシャがそこまで言いかけた時、別の声がそこへと割り込んできた。
『ちょっと待って――』
言いかけたアシャの言葉に追っかぶせるように、
『君――たしか、さっき
突如として元に戻った少年の口調に、ノエは訝しげに小首を傾げながらも、小さく頷く。
「え――ええ、数多の
『それなら、
そこで翔真の頭はこくんと項垂れる。まるで何か別の存在がその身体を奪い取ったかのようにびくりと小刻みに震え、止まる。ゆっくりと上げられた顔には、金色をした2つの
「
翔真の声色を上書きするかのような強い響きをもって、その口から放たれるのはアシャの言葉。爛々と眩い金色の瞳を誰へともなく睨むように動かして、そして彼は何かを思案するように、ふむと唸った。
「だが――おい、聞こえていたな小娘。真に警戒すべきは、
アシャの言葉に瑞穂は頷き、そして不安げに眉を寄せた。
「そう――ですね――でも、
その時、エレベーターの中にチンという短い音が響き、最上階へ到達したことを告げた。
「着いたわ――」
ノエは努めて低い声を出す。そしてゆっくりと開いていくエレベーターの扉を見据えながら左腕を前へと突き出すと、詠唱を始めた。
「
少女の白い腕の先が、その詠唱に呼応するように
そうしていく内にも開いていく扉。その先には、ノエの言う通り無数の影の
ノエは右手で左腕を押さえる。ガチャリと金属の擦れる音が響き、纏わる
「さて、いくわ――
そう呼称した技の名が掻き消えるほどの騒音とともに、
氷弾の掃射により、
ガラス張りの回廊が続いている。それをひたすらに走りながら。前方の敵はノエが
しばらくの攻防の後、
瑞穂はふうと息を吐き、周囲を見回す。スカイラウンジと呼ばれるだけあって、眼下には見事な眺望が広がっていた。夜景ならばさぞかし美しかっただろう――と、ふとそんな考えが脳裏を過ぎった、その時。
「ふははは――なるほど、それが
響き渡るのは
「ノエちゃん、この声が――」
瑞穂の問いに、ノエは、ええと小さく頷き、そしてその扉に手を掛けた。
「ティマニタは、この中にいる――」
意を決したように、ノエは扉を開く。
○●
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