第51話 夏と巫女とおみくじ ⑤
「面白かったぁー!」
そう言うと舞はゲームセンターを意気揚々と出、そのあとを安藤が続く。
「楽しんでもらえたみたいで何よりですよ」
「みたいじゃなくてホントに楽しかったよ! じーちゃんが知ったら大目玉だけどね……」
「あはは確かに。それで次はどこ行きます?」
「えっとね……」
まずい。映画と水族館以外は完全にノープランだ。
今から水族館に行くにしてもまだそのタイミングではないような気がする。
どうしようかと思っていると、着信音が鳴った。舞がトートバッグからスマホを取り出すと、友人であり、自称恋愛マスターである加奈からの電話だった。
「ごめん、ちょっと友だちから電話だから」
そう断って安藤から離れ、「もしもし?」と出る。
「おす。デートはどう?」
「うん順調だよ。今のところはね……それでね、加奈」
「みなまで言わんでもよい。察するにこのあとどこへ行けばいいのかがわからない。そんな感じでしょ?」
「なんでわかるのよ!?」
「そりゃあんたの行動パターンってめっちゃ読みやすいもん。というかデート初心者が陥りやすいケースだよ。それ」
「そ、そうなの?」
「うん。いま池袋にいるんでしょ? ならショッピングモールに行きなさい」
「ショッピング? でもあたし、とくに買いたいものないんだけど……」
受話口から友人の溜息。次に「これだから初心者は……」とぼそっと呟く。
「いい? 別に買いたいものがなくても、デートでは行くの! ふたりでお店を見て回ったりするだけでムード作りにもなるんだよ」
「う、うん」
「よし。ならすぐに行きなさい。彼氏待たせちゃダメだよ」
「ねぇ、ホントにどこかから見てるんじゃないよね?」
「さぁー? とにかく頑張ってね♡」
「あ、ちょっ!」
「それでは健闘を祈る」と言い残して通話は切られた。
しばしスマホの画面を見つめたのちに安藤のところへと。
「あ、神代さん。もう電話いいんすか?」
「う、うん。あのさ、つぎはショッピングモールに行かない?」
安藤と舞が向かったモールは駅から近いところにあった。
「なにか買うものでもあるんですか?」
「あー……別にそういうわけじゃないんだけどね。でもほら、なんか見てるだけでも楽しいじゃない? ここなんか面白そう」
舞が指さしたのは雑貨店だ。書籍がメインなのだが、ここではそれ以外にバラエティーグッズや変わったおもちゃも並んでいる。
「みてアンジロー! 変なのあるよ!」
そう言いながら棚にぶらさがるようにして掛けられた、妙なポーズを取っているキーホルダーを指さす。
「ホントだ。それに変わった本もいっぱいあるんすね」
安藤が棚を見上げると、様々なジャンルの本がところ狭しとずらりと並ぶ。
「そうだね。マンガも見たことないのが置いてあるし……って、これ新巻出てたんだ!?」
舞が手に取ったのは愛読書である『恋する☆フォーチュン』だ。
人気作のラブコメ漫画を手にした舞は「ごめん、ここで待っててね!」と言うなり、颯爽とレジへ向かった。
あとに残された安藤はふたたび本棚に目を戻す。すると一冊の背表紙が目についた。
手に取ると旅行のガイドブックで、表紙にはスペインとある。
ぱらぱらとページをめくってみる。スペインの有名な建築物や観光地の写真が並び、その下には詳しい解説が。
ひととおりページをめくってから安藤は本を閉じた。
「ありがとうございましたー」
レジにて購入した本を受け取り、安藤のところへ戻ろうとくるりと踵を返すと、目の前に安藤が。
「アンジロー?」
「俺も本を買おうと思いまして」
手にしたガイドブックを見せる。
「それって、スペインの?」
「読んでいたら欲しくなっちゃったんで……」
「ふぅん……」
そのままレジで商品を手渡す安藤を見つめる舞は複雑な面持ちだ。
会計を終えた安藤に「他のところも見て回ろ?」と提案し、雑貨店をあとにする。
⑥に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます