第51話 夏と巫女とおみくじ ④
舞の友人が勧めてくれたという映画は恋愛映画だった。
話題作だけあって、恋愛映画をあまり見ない安藤でもふたりの男女の恋模様には目を離せなかった。
やがて場面は男の部屋に切り替わり、女性との口論が繰り広げられる。
「誤解だ! そんなつもりじゃなかったんだ!」
「私に言わせれば、あなたはただの臆病者よ!」
女性が脇目も振らずに部屋を出ると、後には男がひとり残された。
安藤にはなぜか女性の放った台詞が心に突き刺さった。
まるで自分のことを言われたかのように……。
手すりのホルダーに入れたポップコーンに手を伸ばして、ひとつつまむ。
ふと隣の座席に座る舞のほうを見ると、彼女は顔を赤くしていた。
彼女が安藤の手に自らの手を重ねようとして、思わず引っ込めてしまったことなど彼には知る由もない。
†††
「あー面白かった! どうなることかと思ったけど、最後に結ばれて良かったね」
映画館を出るなり、舞が感想を口にする。
「まさかラスト直前であんなどんでん返しがあるなんて……ハッピーエンドでよかったなー。ねぇ、アンジローもそう思わない?」
舞が興奮気味に聞くも、当の本人は上の空だ。
「アンジロー? どうしたの?」
「え。あ、いや、ちょっと考え事を……」
「そう……それよりどこかご飯食べにいこ?」
映画館を出たふたりは多国籍料理店が並ぶ歩道を並んで歩く。
「池袋ってあんまり行かないけど、美味しそうなお店がいっぱいあるね。タイ料理も美味しそうだな」
「タイ料理なら前に本場で食べたことありますよ。辛いのが多かったですけどね」
「へぇー」
路面に出されたメニュースタンドのひとつに目を付けると、ぱらぱらとページをめくる。
「うーん……あたしのお小遣いじゃちょっときびしいかな? ハンバーガーでいい?」
「そうすね。こっちもそんなにお金持ってないですし」
「決まり! じゃ、あそこ行こ!」
舞がハンバーガーチェーン店を指さして歩きだそうとした時、彼の足音がしないので振り向く。
「アンジロー?」
見れば彼はレストランの前に立っていた。入り口の横には赤と黄を基調とした国旗――スペインの旗が風でなびいている。
「スペイン料理食べたいの?」と壁に掛かったメニューを見るが、高校生の小遣いでは高額なものだった。
「むりむり。こんなお店、あたしたちには不相応だよ。ハンバーガーがピッタリだって」と安藤の腕を引っ張る。
その日、はじめて彼の腕に触れたことに舞は気付かなければ、安藤もまた触れられたことに気付いていなかった。
†††
「ハンバーガーひさしぶりだけど、やっぱり美味しいね」
あむっとハンバーガーを口に入れる。
向かいに座る安藤も舌鼓を打つ。
「ここのハンバーガー店はソースが美味いんすよね。あ、そういえばこないだフランチェスカさんテレビ出てましたよ」
「え、そうなの?」
「『Youはなぜ日本に?』という番組ですけど、見たことないですか?」
「名前は聞いたことあるけど、うちはじーちゃんがテレビのリモコン握ってるから……」
そのあとは映画の話で盛り上がった。
安藤が腕時計を見ると、入店してから一時間近く経っていた。
「そろそろ出たほうがいいすね」
「ん、そうだね」と舞も腕時計を見ながら。
水族館へ行くにはまだ早い時間だ。それまでにどこかで暇をつぶさないといけない。
だが、どこに行けばいいのだろうかと思案していると、安藤が助け船を出してくれた。
「あの、よかったらゲーセン行きません?」
「ゲーム? もちろんいいよ!」
ハンバーガー店を出たふたりは近くのゲームセンターへと。
「わ、ゲームセンターってこんなんなんだ」
「神代さんは入ったことないんですか?」
「うん。じーちゃんがうるさくてね……いつもは友だちの家でゲームするの」
「そうなんすか。あ、このゲームやりません? ふたりでも出来ますよ」
安藤が指さしたのはシューティングゲームの
†††
「わっわっ! こいつ全然倒せないんだけど!」
「頭を狙って! 頭が弱点なんですよ!」
「頭を狙えばいいのね? わかった!」
最終ボスの頭部を協力プレイで狙い撃ちすると、そのまま巨大をぐらりとのけ反らせ、ずしぃんと地響きを立てて倒れた。
次いで『GAME CLEAR』のテロップがファンファーレとともに流れる。
「やった! クリアしたよ!」
「やりましたね!」
舞がぴょんぴょんと跳ねながら安藤とハイタッチ。
「でもアンジローすごいね! 絶対倒せないと思ってたもん」
「前にフランチェスカさんが攻略法を教えてくれたんですよ」
「あ、そうなの……」
顔を曇らせるが、すぐに笑顔に切り替え、別のゲーム機を指さす。
「次、あれやろ! あとプリクラも撮ろうよ!」
⑤に続く。
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