第26話 NO TIME TO PRAY①
昼すぎの春らしいよく晴れた日、安藤は商店街のアーケードを歩く。
手には茶色の小さな紙袋が。フランチェスカへのタイ土産だ。
彼女、気に入るかな……?
そんなことを考えていると、いつの間にかアーケードを出ていた。ここまで来れば、見習いシスター、フランチェスカが務める聖ミカエル教会まではすぐだ。
トントンとノックしてから「失礼します」と入る。
礼拝堂はがらんとしており、静かだった。だが、これはいつも通り。
この時間なら彼女はいつもの長椅子で
こつこつと足音が響くなか、安藤は彼女の定位置に向かう。
「こんちはー。タイから帰ってきま」
そこに彼女の姿はなかった。いつもなら
「あら?」
声がしたほうを見る。教会の隣に位置する居住スペースに通じるドアからマザーが出てきた。
「どうされましたか? 安藤さん」
「あ、こんにちはマザー。あの、フランチェスカさんは? 彼女にお土産を持ってきたのですが……」
「そうですか。実は彼女はいま奉仕活動に出ておりまして……海外ですから来週までは戻ってきませんわ」
「海外? どこですか?」
マザーが彼女のいる場所の名前を口にする。
†††
「えっきしっ!」
礼拝堂の長椅子で横たわるフランチェスカはひとりシスターらしからぬくしゃみをひとつ。
「うー……誰かあたしのウワサでもしてんのかしらね?」と鼻を擦る。
そしてふわぁあとあくびをして「んーっ」と伸びを。
ごろりと体位を変えるが、なかなか寝つけない。
「枕が変わると寝つけないとは言うけど、やっぱいつもの長椅子じゃないとダメね」
ベルトに差し込んだスマホを取り出す。
「おまけにネット使えないし……」
電波が微弱なためか、画面の上のアンテナが一本しか立っていない。
スマホをベルトに戻してごろりと横に。
「あーあ退屈! 人手が足らないからって、いきなりあたしをこんなとこへ派遣するなんて……! マザーも人使いが荒いんだから」
ぼんやりと天井を眺める。
アンジロー、どうしてるかな……。
ふと、日本にいる男友達に思いを馳せる。
もうバンコクから帰ってきてるかな? 連絡するヒマなかったしね……。
その時、わずかにぐらぐらと揺れた。地震だ。
また? ここに来て二度目なんだけど……。
はふぅっとまた溜息。
その時、がちゃりと扉の開く音がした。がばりと素早く身を起こす。
「あのー、こちら観光しても構いませんか?」
日本人の観光客だ。
「はい! どうぞ中へ!」
――マカオ、コロアン島にある聖フランシスコ・ザビエル教会の礼拝堂にて末裔であるフランチェスカが元気よく応える。
②に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます