EXTRA SPRING VACATION ~神代舞の場合~


 「ちょっと!」


 神代神社の巫女、舞がフランチェスカに文句を言おうとするが、すでに通話は切られていた。


 「だからまいまいって言うなっての……」


 社務所兼自宅の自室にて、舞はそうひとりぼやく。


 こっちはヒマじゃないってのに……。


 スマホを机に置く。その傍らには英語の問題集とノートが広げられている。電話でも話したとおり、進捗状況は芳しくない。


 「はぁ……日本人は日本語だけでいいのに……」


 ふぅっと溜息をついて机に突っ伏す。

 フランチェスカと話した会話が思い起こされる。


 「あの子、すごいな……あたしと同じくらいの年なのに、ひとりで日本に来ておまけに日本語もペラペラで……」


 ちょっと羨ましいな……。


 ちらっと壁にかかったカレンダーを見る。


 来月から、高校三年生か……。


 四月から新学期スタートだ。そして高校三年生なので当然、進路について真剣に考える時期でもあるのだが……。


 あたしはいったい何になりたいんだろ?


 この時期の学生が抱える悩みである。大学進学か就職か。はたまた専門学校か。いずれにせよ……


 「いつまでも巫女続けるってわけにもいかないもんね……」


 片肘ついてなんとなくパラパラと問題集のページをめくる。

 学校で習う英語はほんの少ししか役に立たないとフランチェスカの言葉が思い出された。

 それと同時にアンジローこと安藤のことも。


 彼、将来のこと考えてるのかな……? そういえば、こないだお返しでもらった、レチェ……なんとかのお菓子おいしかったな……。


 スマホに目をやる。トントンとタッチしてアプリを開く。


 「あ」


 そういえば、まだライン交換してないんだった……。


 幸い、フランチェスカとは交換済みなので彼女を経由して交換することも出来るのだが。


 「こういうのは、自分からじゃないとね」


 アプリを閉じてぱたりとスマホを置く。そしてふぅっと溜息。

 自分でもわかってはいるが、こういう時にうじうじ悩んでしまう自分が嫌いだ。

 だけど、進路も、片想いも中途半端のままで終わらせたくはない。


 ――今度、彼をデートに誘ってみよう。そのときにライン交換すればいいんだし。うん、そうしよう。


 「うん!」と言って気を引き締める。

 まずは目の前の宿題を片づけなければ。


 どんなことがあっても、後悔だけはしたくないもんね。




次話に続く。

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