第25話 ぼくらのヒーロー 前編


 「ゲギャギャギャ! 人間どもよ、絶望せよ! 貴様らの負のエネルギーを我が主君、ジェネラル様に捧げるのだ!」


 ビルの屋上にて怪人はふたたび耳障りな笑い声をあげる。

 取り巻きの戦闘員が「ウィー! ウィー!」と囃し立てる。


 「そこまでだ!」


 凜とした男の声が響く。


 「誰だ!?」


 声のしたほうを見ると、そこには男四人、女一人の五人組がいた。


 「観念しろ! 怪人ハバネロ!」


 真ん中に立つリーダー格の男が声を張り上げる。


 「誰かと思えば、我が主君に刃向かう不届き者どもではないか。ちょうどよい。ここでまとめて片づけてくれるわ! お前たち、かかれ!」


 怪人ハバネロが戦闘員に命じる。もはや戦闘は避けられない。


 「みんな、いくぞ!」

 「「「「おう!」」」」


 リーダーの声を合図にして全員がスマホに似た装置を取り出す。

 スライドして輝きはじめたかと思えば、またたく間に私服からコスチュームへと姿を変えていく。

 最後にフルフェイスのマスクが装着されると全員で決めのポーズ。


 「燃える正義の赤、レッドレンジャー!」

 「静かな海の青、ブルーレンジャー!」

 「漆黒の闇の黒、ブラックレンジャー!」

 「清楚で純潔の白、ホワイトレンジャー!」

 「力強い太陽の黄、イエローレンジャー!」


 コスチュームに身を包んだ五人がそれぞれポーズを決める。

 「「「ウィー!!!」」」と戦闘員が叫ぶ。

 だが、そんな雑魚にやられるようなファイブレンジャーではない。

 レッドレンジャーのパンチ!

 ブルーレンジャーのキック!

 ブラックレンジャーの体術!

 ホワイトレンジャーのバトン攻撃!

 イエローレンジャーの力に物を言わせた攻撃!


 ばたばたとレンジャーたちの華麗なる動きで戦闘員が倒れていく。

 最後の戦闘員が「ウィー……」と情けない声をあげると、残るのは怪人ハバネロだけだ。


 「さあ、残るのはお前だけだ!」とレッドレンジャー。


 「ぬうう……! 役立たずどもめ! こうなったら、わが輩が直々に相手してくれるわ!」


 怪人が杖を振り回す。火の玉がファイブレンジャーを襲う!

 だが、鍛えられた体術でそれをことごとく避ける!


 「くっ……! これでは近づけないぞ!」ブラックがリーダーを見る。


 「みんな! 力を合わせるんだ!」


 リーダーの声に全員が「おう!」と応え、レッドレンジャーのもとに集まる。

 リーダーがふたたびスマホに似た装置を取り出す。

 するとまたたく間にバズーカのような武器が出た。

 リーダーを除く全員が支え、リーダーがトリガーを掴む。


 「いくぞ! ファイブボンバー!!」


 五人全員の力をエネルギーに変えた弾丸は炎に包まれながら、怪人ハバネロの胴体を貫いた。


 「ギャアアアアーッ!! ジェ、ジェネラル様ぁあああー!」


 断末魔の叫びをあげたかと思えば、怪人ハバネロは倒れ、爆発した。


 「みんな、よくやったぞ!」


 リーダーがうなずく。それを合図にして全員がポーズを。

 そして最後に決めセリフだ。


 「「「「「正義は勝つのだ!!」」」」」



 「せいぎはかつのだ!」


 そう言った少年はテレビの前で同じように決めポーズを取った。


 やっぱりファイブレンジャーはつよいや!


 その時、甲高い笑い声が響いた。

 その声に少年も五人組もぎょっとする。声は上空からだ。


 「ハバネロみたいな小物に苦戦するなんて、この先危ういわよ?」


 ふたたび高笑いしたその女は長い金髪をなびかせ、魔女のような黒装束に身を包み、ホウキに腰かけてふわふわと浮いている。


 「お前は誰だ!?」ブルーが指さす。


 「あらぁん。ひとを指さしちゃダメって教わらなかったの? ま、初対面だし、名乗ってあげる」


 そう言うなり魔女は豊満な胸に手を当てた。その拍子に金のペンダントが揺れる。


 「ジェネラル様が幹部のひとり、イザベラよ。以後、お見知りおきを。よろしくね♡」


 ぱちんとウインク。


 「ふざけるな! 降りて戦え!」イエローが怒気をあらわにする。

 イザベラという名の魔女は細い指を顎にあてがう。


 「んー……そうしたいんだけどぉ、ジェネラル様の命令で、今回は敵情視察に来ただけなの。だから、これでおいとまするわね」

 「待て! ジェネラルの目的はなんなんだ!? なにを企んでいる!」


 いきり立つリーダーにイザベラははあっと溜息をひとつ。


 「せっかちねぇ。そんなんじゃ女の子に嫌われるぞ☆」 


 それは、ほんの少し指先を動かしただけであった。

 いきなり五人組が地面に伏せられたのだ。まるで見えない壁に押しつぶされたように。


 「どう? これがあたしの能力、重力魔法。良い眺めね。みんな仲良く地面に這いつくばってて」


 くすくすと魔女が忍び笑い、ついっと指を動かすと、なにもない空間に裂け目が出来た。


 「あなたたちの戦いは充分見せてもらったし、そろそろ帰るわね。また会いましょ、ボウヤたち♡」


 チュッと投げキッス。そしてイザベラは裂け目の中へと消えた。

 同時に魔力が消えたのか、五人組は身軽に動けるようになった。


 「大丈夫か!? みんな!」

 「あたしは平気……」

 「くそっ! なんなんだあいつは!」

 「イザベラとか言ったな……ヤツとはまた会うことになるな……」

 「今の俺たちの力じゃ、どうにもならねぇ……」


 イザベラが消えた上空を見上げる。当然ながら雲が流れているだけだ。


 「……ジェネラル……お前の野望は絶対に俺たちが食い止めてみせる!」


 そう言うとリーダーは決意を露わにするかのように拳を硬く握りしめるのであった……。



                 つづく



 エンドロールが流れても少年はテレビに釘付けだった。

 無理もない。憧れのヒーロー、ファイブレンジャーが赤子の手をひねるかのように負けたのだから。


 「なおき! ご飯よー」台所から母の声。

 「はーい、ママ」


 †††


 「なぁ、みたか? きのうの」

 「みたみた! イザベラってつよいよな!」

 「ファイブレンジャーまけちゃうのかな?」


 公園でファイブレンジャーの話で盛り上がるのは直樹という少年とその友人ふたりだ。


 「ファイブレンジャーはつよいんだよ! イザベラなんかにまけないって!」


 直樹が拳を握りながら力説。それに友人たちが「うん!」とうなずく。


 「これからどうする?」

 「だがしやいこうぜ!」

 「いいね。おれ、ドッキリマンチョコたべたい!」



 「はーい、毎度ー」


 三人の少年が駄菓子屋を出て、そのまま商店街へと歩く。


 「なーこれからどうするよ?」

 「んー公園でファイブレンジャーごっこでもする?」と直樹。

 「えーまた? あっ、キラキラシールだ!」

 「マジかよ! すげーレアなのに」


 友人ふたりがドッキリマンチョコのおまけに盛り上がっているなか、直樹はアーケードの向こうを見ていた。


 「おい、あれみてみろよ……」

 「なに?」

 「どうしたの?」


 直樹が指さすほうを見ると、ひとりの少女が歩いていた。

 肩にエコバッグを提げた彼女は腰まで伸びた長い金髪をしていて、こちらに向かって歩いていた。

 だが、目を引くのは彼女の装いだ。ヴェール、カーディガン、スカート、そのすべてが黒ずくめで、胸には金のペンダント……。


 三人の少年は顔を見合わせる。


 ――――イザベラ!


 「あら?」


 不意に話しかけられたので、少年たちが「ひっ!」と声がうわずった。


 「ひとを指さしちゃダメよ。ボク」


 少女はそう言うとパチッとウインクをひとつ。

 ふたたび少年たちが顔を見合わせる。


 「きいたか? いまの」

 「あ、ああ……たしかにきいた」

 「あいつ、イザベラだ! ホントにいたんだ!」最後の少年が「ばか! こえがおおきいだろ!」 とぽかりと殴られた。

 「ごめん」

 「バレたらどーすんだよ?」

 「ね、ねぇなおき、どーすんの?」


 直樹が心配そうに見つめる友人のほうを向く。


 「おれたちはせいぎのみかた! やることはひとつ!」


 びしっと遠くの少女を指さす。


 「あいつをびこーして、たくらみをあばくんだ!」





後編に続く。

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