第12話
エメラルドの森林を脇目も振らずにひたすらに進む。右も左も上も下も関係ない。この足が触れられるならそれはボクの道だ。
焦りと恐怖を、抑えられないでいる。仲間に奇襲されるのがこんなに恐ろしいとは思わなかった。あの矢尻のような武器を扱う仲間をボクは識っている。
「どうして……」
高鳴る心臓の音が集中力を奪っていく。本当ならこれだけの濃度があれば、空気中のニューアーク粒子を踏みつけてもっと加速することも簡単なのに。
「はぁっ、はぁっ……くっ」
呼吸が乱れ始めた。いつもなら決して息が切れたりなどしないのに。もっと早く、もっと楽に走れるのに。
ボクは自分自身がどれだけ乱されているかを身をもって実感していた。それは焦りとなって足並みを崩し、疲れとなって鉛のように身体に重くのしかかる。
アイオーンに連れられてかなり深くまで来てしまったようだ。まだまだ森は広がり、出口と思しきところは見えてこない。
「やっぱ、のめり込むとダメだなぁ……」
ひとりごちていると、ふと人影が視界に飛び込んできた。それは一瞬だったけれど、どこか見覚えのあるシルエットだ。
それを思い出そうとしたが、それは突然駆け抜けた痛みによってかき消されてしまった。
「くぁっ……」
何かが背中を掠めていき、体勢を崩される。ボクは墜落するように、駆け抜けるスピードそのままに地面へと叩きつけられてしまう。
「ぐっ……うぇっ……」
肺の中の空気が全て溢れ出してしまった。もう一度吸うことができない。悶えながらも、必死に目前の空間へとかじりつく。周囲のもの全てが赤く染まっているように見えるほど、ひどい状態らしい。
意識が朦朧としてくる。足りないのだ、活動するための空気が。
「……うぁ……きみ、たちは」
目前へと降り立つ人影が二つ。ぼんやりとした視界でははっきりと捉えることができない。呼吸もまだ浅く、息苦しい。身体もさらに重くなったみたいで、立ち上がることすらできない。骨も何本か折れてしまっているみたいだ。全身が軋んで痛い。
「はは……絶望、的だなぁ」
ぺたんと座り込んだまま動くこともできず、満足に相手を見ることもできない。何がボクの命を奪うのかわからないのは、とても怖いし、嫌だった。
脱力し目を閉じる。
ここでボクは終わる。それ以外の道は潰えてしまったんだ。
「もうい、ち、ど………ジュディに……」
ーーピュイ。
静寂に溺れたボクの耳に、アイオーンの声が聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます