第10話
確かに彼は頷いてみせた。まるで意志の疎通ができているかのように。ならばここにきたのも偶然ではないのだろうか。
「ボクのことを見ていたのは、君?」
ふるふると首を振り否定を表した後、彼はその透き通る嘴でボクの袖を咥え引っ張る。そこには確かに意思が宿っているように感じられた。
「どこかに、連れていきたいの?」
頷く代わりにガシャリと翼を広げ、ボクの目の前ではばたいた。
翼がはためくたび、内側から青白い粒子が溢れ出すように輝く。結晶の中でニューアークが力を発現しているかのように。もしかすると、さっきの猪も同じような状態だったのかもしれない。
「ついていけば、いいのかな?」
彼は首を横に振り、自身の足を嘴で示した。カンカンと硬質なもの同士がぶつかり合う音がする、これはこれで新鮮だ。
「え、君の足に捕まるの?」
困惑するボクの手首に降り立ちガシッと掴んでから彼はコクリと頷いた。つまりそういうことなのだろう。彼は中型サイズの鳥で、人一人を持ち上げて飛ぶことなど到底不可能に見受けられる。のだが……ボクの目を釘づけにするその真っ黒な意思持つ瞳が自信に満ち溢れている。
そこまで言うなら仕方ない。とボクは彼の足に捕まって少しだけ力を使って体を軽くしてみた。……もし落ちても困るからだけど。
右手で彼の右足をしっかと握り、目を閉じて木の枝から落ちるように身体を離した。するとーー。
「ん……」
ボクの足は大地に着くことはなく、浮遊感とともに高速で動いていた。ゆっくりと目を開けると、結晶樹木の間を縫うように移動しているのがわかった。ーー飛んでいる。そして。
「綺麗だね、君」
真上を飛ぶ彼の翼からニューアークの粒子が鱗粉のように舞っている。それはさながら粉雪のようで美しい。周囲の動く景色よりもボクには素敵に映った。
ここでボクには一つの仮説が浮かんだ。
彼らが持つこの結晶は、ボクらの力が発現する部位と同じで、ニューアークを取り込み力とする機関としての役割を持つのだろう、と。そのおかげで、地上で見られる動物よりも遥かに強力な力を有している。とはいえニューアークが結晶になる特性を鑑みると、おそらく彼らは生存に必要な力以上を取り込んでしまったため、その部位に有り余るニューアークが溜まってしまい結晶化したのだと考えられる。これを進化と見るかは考えが分かれるのだろうが。
などと青い雪を見ながら思っていると、ボクをぶら下げた鳥はゆっくりと減速し、そして止まった。
「んん……どうしたの?」
カシャンカシャンというはばたきの音を聞きながら降りていくと、やがてそれが視界に入った。
それは見覚えのある二人の信徒の、遺体だった。
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