第8話

「……?」

 まただ。何かに見られている感覚。敵意や悪意は感じられないものの、居心地の悪さを感じてしまう。

 ウエストポーチから手帳を取り出して地図を描き込んでいく。元々汚染の広がる地上での移動ルートを残しておくためのものだが、地図のない場所では描いておくと後々助かる。

 そもそも、視線を感じたまま動くのは得策ではない、気がする。ので、無心になって描くことにする。

「ボクが降り立ったのはあの辺り。方向は……んー」

 コンパスは役に立たない。地上ではまだ使えたんだけど、それでも過去の地図と見比べながらやってたから、ここでは更に痛手になる。

 とりあえず目印になりそうなもの、情報になりそうなものをマーキング。あとは大体の距離、これは音の距離感を頼りになんとかなる、かな。

「ん。消えたみたいかな」

 先ほどから感じていた視線がなくなった。再度行動開始だ。

 森林までの道の中腹あたりに差し掛かった場所に歩を進める。幸い、草原のように広がる場所だ、見渡しは良い。原生種も遥か遠くに少し見える程度で周囲にはいない。

 地図を書くついでに、見つけたものをおさらいしておこうか。

 パラパラとページをめくって、つい先ほどデッサンした絵を開く。

 草原の一角に自生する植物が群生しているところがあって、そこに生えていたものだ。

 地上の植物と変わらない緑色の茎に、同色の葉、だが違うのはそのどれもが結晶化していたという点。

「ただ、まだ成長しきっていない個体は地上で見られる植物と遜色なく、結晶化もしていなかった、と」

 どの段階で結晶化するのかは要観察だろうが、そんな時間はなかったのでデッサンだけを残した。ついでに、結晶化した部分を手折り、かじってみた。すると驚くことに、ニューアーク凝縮服用剤『グノーシス』と同等の効果を示すことがわかった。即ち体内への直接的なニューアーク摂取および爆発的な増幅。要するにあれは。

「植物が体内にニューアークを摂取し続けて、ある濃度を越したところで結晶化した。ってところかな、ん。……詳細はまた今度」

 ぱたん、とノートを閉じて視線を上に向けると、あの赤い塊が視界の端に入った。もしかして近づいている……?

「早く森へ行かないと……あれからは隠れたほうがいいみたいだ」

 本能が警鐘を鳴らす。少しでも早く行け、と鼓動が早鐘を打った。

「ん……もう、めんどくさいなぁ」

 緑の大地に靴を噛ませ、思いっきり蹴飛ばした。

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