第5話
地下を走る線路の洞窟。その中途に入口はあった。
過去には東山線と呼ばれていた沿線のようだ。それをフシミと呼ばれる地区へと向かう最中にそれは存在している。ナゴヤの地下は地表の酷さとは裏腹に、老朽化による崩落だけでほかは綺麗そのもののようだ。
崩落を免れたのか、あるいは崩落によって道が開けたのかはさだかではないが、瓦礫が散見される中で入口はその他の地下道に比べてもはるかに綺麗だった。
「よくこんなところを発見したねぇ」
「開発に使えそうな区画を探していたときに偶然発見しただけですが……地下線路の上は元々電気が流れていたようで、プラント設置にうまく使えるんですよ」
どうやら本当に、見回りをしているときに発見したらしい。
入口は仄暗く、さらに下層へと伸びる階段が延々と続いているように見えた。それはさながら奈落へと通ずる落とし穴のようだ。聖域の方は教団で灯りを灯していたからよいものを。
「主任」
「うん?」
ボクが羽織っているのとは違う外套を渡される。それを受け取ると、かすかに命の息吹が耳に届いてきた。
「これは?」
「精霊の羽織です。迷宮より下層は念のためこれを羽織っていてください」
「ふーん。じゃあこれが?」
「まだ試験段階ですが……これがうまくいけば死の嵐の地に居住区を作れるかもしれません」
おそらく自身で確認できていないからだろう、リヒトの顔には不安が宿る。
「下層の生物の素材で作られた羽織か。……理には適ってる。きっと大丈夫さ。そ、れ、に」
彼の鼻元に指を向け、つんつんと仕草をする。目の前にいるのを誰だと思っているんだろう、彼は。胸を張って。
「このボクが、今回の捜索でちゃんと検証してくるよ」
「相変わらずで安心しました。よろしくお願いします。ただーー」
ボクの肩を掴んで、研究者ではない、一人の人間としての顔でリヒトは続ける。強い力が手に込められていて、少し痛い。
「危険を感じたら即時撤退を。必ず、必ず戻ってきてください。いいですね?」
「わかってるよ、リヒト。……痛い」
「あっ……すみません」
首を振って微笑みかける。ボクを本気で心配する信徒なんて本当に珍しいものだ。久しぶりに、人間扱いされている気がして心が安らいだのを感じる。
「主任、あとこの二つを持っていってください」
「んん……! こ、これは貴重な! 結晶型ニューアーク!」
「はい。こちらが通信用。こちらがーー」
「えええええええ!?」
心の底からときめきが溢れて止まらない。
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