第4話 

「報告すべきことは主に三つあります。一つは、死の嵐および高濃度ニューアークへの対処法。そして『入り口』の発見。三つめはそれに関連して、私を除いた派遣メンバーが調査に出たまま消息を絶ったことです」

「……2つ目からで」

 得意げな表情から一転、リヒトの表情は険しくなる。ぐっと握られた手には力が込められていた。

「これはまだ本部へも報告していない秘匿情報ですが……『聖域』と同じような役割を持つ道を発見しました」

 聖域とは、天使教団にとっては二つの意味を持つ。一つは教団にとって大切な聖なる場所であり、信徒であっても容易に踏み込めない場所を指す。もう一つは。

「天使達の檻へつながる道……」

「はい。ですが、降りる場所は全く別となっており、我々の聖域から立ち入れる場所とは似ても似つかぬ場所になっています。しかも……」

「しかも?」

「さらに下層へと続く道を発見しました」

「……なるほど。確かに興味深いね。それで、他の上位信徒達を向かわせて調査をさせていたわけだ。まぁ……本部に報告するにしても、明らかになっていないことが多い段階ではね。ーーそれに、それだけじゃないでしょ?」

 片目を閉じリヒトにアイコンタクトをする。どうやら例のことに関係し、彼は自身の判断で本部に黙っていたようだ。

 うなずきを返す彼を横目に、ボクは培養プラント達を見やる。

 本部から持ち込んだ物以外で培養されているものは、新たな道から降り立ったさらに下層で採取できたもの、ということだろう。ボクでもほとんど見たことがないものばかりだ。そちらももちろん興味深いのだが。

「それで、調査の最中消息を絶ってしまったと」

 彼はバツが悪そうに下を向く。決して彼だけのせいではないが、現場主任としての力不足は否めない。

「……ボクにできるのは捜索だけだよ。ボクは知っての通り戦闘能力は無いに等しい」

「わかっています。それでも」

 強い眼差しでリヒトはボクの目を見据える。彼とて、今にも動き出したい気持ちだったに違いない。

「どんな結果が待っていたとしても、彼らの顛末を私は知らなければならない」

「ん……いい覚悟だ、上司らしくなってきた。ボクは嬉しいぞ」

「茶化さないでください……主任」

 彼の強張った肩から力が抜けたのがわかった。呆れもあるんだろうが、緊張の糸が解けてくれたらしい。

「はは、ごめんね。よし。それなら善は急げともいうしーーん?」

 視線を感じた気がして周囲に目を配るボクに、リヒトは疑問符を頭の上に浮かべた。

「なんでもない、行こう。案内を頼むよ」

 

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