第2話 悪役令嬢?姉に来た二人目の刺客は身内だったらしい。
湯あみをしドレスに着替えたカラミティは軽い朝食を終え、サロンにて優雅に食後のお茶を楽しんでいた。いつもトレーニング後のこの時間は軽い反省点と、次の目標をたてている。それがないからカラミティは自分がなまっているのではと思ったのだ。
それがない理由は…
「カラミティ!お前、現当主であり実の父に手を挙げるとは何事だ!そんな野蛮なことが許されると思っているのか!」
バタバタと足音が響いたと思ったら現テスタロッサ伯爵家当主クラリ・テスタロッサが杖を突きながら器用に走ってきたのだ。
「お父様、伯爵家の当主たるもの騒がしくするものではなくてよ。それに我が”テスタロッサ”に婿入りしたならばあのくらい防御するなり捌くなりしなければいざとなった時、いかがするおつもりですか?まさか護衛の者がいるから安心だとでも?」
カラミティの言葉にクラリは顔をますます赤くして憤慨した。
そもそもクラリはテスタロッサ家の婿である、カラミティの母の兄弟姉妹が権利を”放棄”したため婿を探していた所、縁戚関係であったクラリに”白羽の矢”が立ったのである。
当のクラリは伯爵家の当主に選ばれた事に浮かれていてここが”テスタロッサ家”である事を頭から抜け落ちていたのである。
ただの貴族として育った娘が妻ならば口出しできまいと人生の春を感じていた、そう”テスタロッサ”でなければ…。
「娘の癖になんと生意気な!それより第二王子との婚約が破棄されたとはなにをしたのだ!」
右手の人差し指を頬にあてカラミティは首を傾げた。
「婚約破棄は第二王子様から言い出された事でしたし、理由については覚えのない事でしたのでわかりかねます。」
少し思案してから微笑み答える。
「理由もわからず、その上で重症を負わせるとは王族への反逆罪に問われてもおかしくないのだぞ!。」
娘のしれっとした顔にもう我慢ならないとばかりに叫ぶ。
「お父様、もしやあの騒動の後登城なされてないのですか?」
「当たり前だ!あんな事があってから登城しようものならどんなことになるやら。」
そこにオレ、レブンが顔を出した。
「父上、姉上、私が国王陛下と王妃様には直々にお会いし、事の顛末をご報告させていただき、むしろ謝罪をいただいております。」
いまさらながらオレは日本からの転生者、記憶のあった通り事が運ぶであろうと予測し、国王夫妻にたびたび第二王子の学園での過ごし方とその素行を書簡にてお伝えしていたのである。
根回しはしておくべきだし、第二王子の素行が問題なければほかの選択肢も考えていたのだが結果はこの通りである問題は。
「父上、報告の際ほかの部署もまわってきたのですが…最近、登城されておりませんね?。」
ピクリ、カラミティの崩れない優雅な眉が少し動いた。
「な、なにを言っている、わ、私はちゃんと登城し、し、仕事を…。」
憤慨した赤い顔から一気に真っ青な顔に変わり動揺し始めた。
「おかしいわ、お父様はお城での仕事が忙しくその他の仕事はレブンに任せていたのに…?。」
すっとカラミティが音もなく立ち上がる。
「多分城の連中が私を見なかっただけでちゃんと…!。」
「登城記録もなかったですよ。」
すかさずオレは父の言葉を遮った。
「それに調べはついています。父上、お覚悟を。」
オレは懐から取り出した部下からの報告書を姉に恭しくさしだした。
「…色街に昼間からかよい、夜は女と国営のカジノでの豪遊ですか…。」
書類に落としていた視線がゆっくりとクラリに向かう。
「いや、誤解だ!冤罪だ!何かの間違いだ!」
ゆらりとカラミティはクラリに向き合う、顔に笑顔を張り付けながら背中に黒いものをまとって。
「どうやら、ここにも、戦わなければならない相手がいたようですね…。」
ゴキッと右腕を鳴らしながらカラミティはクラリに詰め寄る。
「まてカラミティ、私は当主で父親だぞ!」
カランと杖を落として後ずさろうとするクラリだが朝のダメージが抜けていな為、逃げることができない。
「ご安心くださいお父様、当主はレブンがおりますし、これ以上娘として父親の外聞が悪くならないようにと…優しさです。」
いうが早いかカラミティはクラリの後ろに回り込み腰に腕を回した。
「な、なにを…!!」
「ごきげんよう…お・と・う・様!」
その言葉が終わるや否やクラリの大地と空は一変した。
カラミティがクラリを持ち上げ、そのまま体を反るように一緒に倒れこむようクラリの体を地面に突き刺した。
ドレス姿のままま綺麗なバックドロップを決め、すぐに立ち上がる。
「カ、カラミティ…き、貴様…」
ぴくぴくと瀕死の虫のように四肢を動かしながらまだ意識はあるらしい。
「あら、さすがは母上の技を受けていただけあって頑丈ですね。今、外交遠征にでている母上にくらべれば私もまだまだということですか…。」
哀れな今世の父はカラミティに両足を持たれ放蕩の原因をつぶされようとしていた。
「跡取りはレブンもいますしもう必要ありませんよね。」
微笑みながらカラミティは死神の右足を上げた。
オレは愚かであるが同じ男としてみていられず目を背けた。
ドゴン、鈍い音とともに声にならない悲鳴を聞いた気がしたがオレはそれを無視し窓の外の天気を見ながら。
「いい天気だ…アリーに会いにいこうかな…。」
婚約者であるアメニティ・リーデン子爵令嬢彼女のやさしさと美しさに癒されたいと現実から目をそらした。
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