続!異世界転生したが姉が前世で知っていた悪役令嬢?だった。

黒猫Sin05

第1話姉の悪役令嬢(覇道)は始まったばがりらしい?

侯爵家の朝は早い、夜が明ける前に侯爵家の長女であるカラミティ・テスタロッサが起床することから始まる。

早寝早起きはテスタロッサ家の家訓の一つだ。

その他にもどこでもすぐに寝れるべし、何かあればすぐに起床し対処すべし等々だ。

起床後すぐに控えていたメイドがトレーニングの支度を手伝う。

軽く敷地内5キロをランニング。

そして侯爵家の地下にある修練場に向かう。

地下に作られたそれは侯爵家の家の半分の広さを持ち、特注のマットが引いてある場所と屋外戦を想定した土と芝生が生えている場所のが3分の2を占め、残りはトレーニング機器が置いてあった。

部屋の明かりは魔力を使った照明でいつでも明かりを調整できる、それこそ夜間戦も室内での暗闇での戦闘を想定してだ。

何故地下室にこれほどの施設があるのかといえば、テスタロッサ家家訓、鍛錬は人に見られるべきものではない、奥の手は敵に知られてはならないと決めた当時の侯爵が王国から土地を与えられたとき、屋敷を立てると共に作ったものだ。

もちろん侯爵家の娘が外で鍛錬を行うと醜聞がたつのでそれを防ぐためと、襲われても反撃し撃退する実力があるのを隠す為でもある。

まずは軽いストレッチに始まりトレーニング機器のある場所でのサンドバック叩き、常にメイドがタオルと”侯爵家伝統の効率の良い水分補給水”をカートに用意し控えている。

それが終わるころ、タイミングを計ったように修練場の扉が開き地上で騎士としての剣の鍛錬を終えたオレ、レブン・テスタロッサが到着するのだ。

軽く汗を流していたので少し遅れたかと思ったが丁度よかったようだ。

年頃の淑女である姉と組手を行うのにいくら弟でも香水などつけないが気を使うものだ。

姉は気にしないだろうがそうもいかない、これはマナーの問題だ。

今日は先日の第二王子と男爵令嬢との”断罪裁判”での時、いまいち技の切れが良くなかったと納得いかなかったようなので室内戦を想定したブースで行う。

いつもならばコーチがつくのだがあいにくと今は留守なので、姉は自分がなまっていると思ったようだ。

お互い”我が伯爵家伝統のテーピングとグローブ”をつけ礼をするでもなく自然にダンスをするかのように近づく刹那____

カラミティが動いた、膝蹴りから始まり蹴り技、それを防御した隙をついての関節技、ほかの誰かならば貴族の娘がこんな事をするとは思はないので奇襲は成功するだろうがそうはいかない。

第二王子は歯を全面入れ歯になり顔面が微妙に変形してしまっていた上、ムチウチの後遺症が少し残ったようだ、男爵令嬢の方は少し手加減したらしく後遺症はないがあの日から姉の影におびえ自室に引きこもっているようだ。

回復魔法の使える王宮専属魔法師ですら完全に治癒できなかったその威力を、物心つく頃からの組手の経験とこれ以外の鍛錬で作り上げた体で受ける。

「レブン、さすが我が伯爵家の次期当主、姉は嬉しい限りです。」

技をさばかれながらも関節技に持ち込んだ姉にお褒めの言葉をいただく。

「姉上こそさすがです、技の切れも威力もますます磨きがかかっております。並みの騎士相手でも引けを取らないでしょう。」

立ったまま腕引じ十字に持ち込まれ体勢が崩れながら答える。

「それは淑女に対する誉め言葉でなくてよ。」

腕を折る気だ、力がかかった、どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

いくら頑丈無敵の鉄壁なる悪役令嬢?である姉上でも乙女心というものがある。

「まったくそのままでは婚約者であるアリーに嫌われるわよ。」

崩れた体勢をそのままに任せて床に倒れこみ姉を叩きつけようとするが、寸でのところで技を外し逃げられた。

「そのアリーについてですが、姉上、彼女まで染めないでいただけますか?」

後ろに転がりそのままの勢いで立ち上がり再度向かい合う。

「いずれあなたの妻となりテスタロッサ伯爵家の一員となるのです、私がいるうちに軽く鍛えておくのは当然です。それにあの娘もなかなか良い資質を持っていますし本人もやる気があるようです。」

無理強いなどしていない、心外だと言わんばかりの姉にため息をつく。

「彼女のご両親が心配しております。今までおとなしい娘だったのに散歩だけでなくランニングまで…確かに必要かもしれませんが私は彼女に癒しを求めているのに…。」

片手で顔を抑えるオレの婚約者であるアメニティ・リーデン子爵令嬢、彼女はうちの女性陣と違い、貴族らしくありながらもおとなしく、穏やかな性格でオレにとって天使のような癒しの存在だ。

「レブン…あなたまで女性に対して癒しだけを求めるとは…まだまだ未熟なようですね。貴族社会は生き馬の目を抜くような世界、社交界にお茶会と殿方にはわからない戦いもあるのです。それを生き残るのに”多少”では足りないくらいです。」

助走を決めて姉上がその勢いを殺さず片足ずつ地に足を付け回転し始める、得意の足を使った死神の鎌のような足技が来る。

縦にバレリーナが踊るように死神が鎌を振り上げて。

姉上のこの技は体重で劣る姉が遠心力と体の柔軟さを生かした必殺の一撃だ、さすがにオレとて普通に受ければただでは済まない。

あえて前進し回転を見極め足をとらえるしか____

その時、鍛錬場の扉が荒々しく開いた。

「カラミティ!第二王子との婚約を破棄された上に重傷を負わせるとはどういうことだ!。」

タイミングが悪かった、テスタロッサ家の人間は技の途中であっても不意打ちを迎撃する癖がある、しかもオレが足の付け根をとらえようと前進していたのを読んだカラミティが回転を無理なく横に変えた瞬間だった。

「ぐぼあああああああっつ!」

不意打ちを迎撃するように姉は扉の方に飛び蹴りを行ったのだ。

実の父であり現テスタロッサ伯爵家当主クラリ・テスタロッサに。

見事腹に蹴りが突き刺さり、父は扉の後ろの壁にめり込みオブジェとなった。

「そうぞうしいです、そして”おひさしぶり”です、お、と、う、様。」

カラミティは悪気など微塵も感じず堂々と腕を組んで父に声をかけた。

返事がないただの…。

「おのれ…この…親不孝…者め…。」

どうやら生きているようだ、オレはメイドに医者を呼びに行かせると、ヒョイと父の片足を持ち上げた。

「姉上、今日の鍛錬はここまでのようです、”これ”は私が持っていきますのでお支度を。」

それを仕方なしに見ていた姉は残念そうに手を広げた。

「面白いところだったのに空気の読めない人だわ。仕方ない、私は湯あみをしてから向かいます、”それ”をよろしくレブン。」


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