1章 

1話 将来なんてメンドクセェ

「おい上代。進路調査票の提出、昨日までだったよな?」

 現在、絶賛説教され中。

 教室に着くやいなや担任からのご指名を受けたのだ。

 明日から始まる文化祭に向けて今日は丸一日その準備に充てられた。

 私のグループが担当していた、文化祭で使うもの集めは昨日のうちに終わっている。

 だから今日は気ままに過ごすつもりだったのだが。

「あははー先生怖いなぁ。もっと笑顔の方が可愛いですよ」

 まあこんな調子である。

 先生は「はあ、全く」とため息も追加で呆れた様子を呈する。

「それで、上代は何に悩んでるんだ?」

 真っ白な進路調査の紙をヒラヒラとさせながら、足を組み替えて面倒くさそうに質問する。

 教師にあるまじき態度の先生をぼんやりと眺める。

「んー、悩んでるっていうか、悩んでないのが問題っていうか」

「つまりなんだ、提出忘れてたってことか」

「まあそれも理由の一つですけど……」

 もう一つの方に結論を出せずに放置していた結果、存在を忘れて期限切れになったのだから。

「とりあえず明日までによく考えてこい。答えだせないなら相談乗るから」

「アリガト先生! また明日来ますよ」

 ぶんぶんと手を大きく振りながら私は職員室を後にした。


 私は思う。

 皆と同じように将来を受動的に、楽な方へ上手く立ち回れたら、と。

 私は考える。

 上手く立ち回れなかったとしても、せめて納得できる道はあるのだろうか、と。


「おかえり。何の呼び出しだったの?」

 ぐったりとした風で教室に戻ると、加奈が出迎えてくれた。

 はじける笑顔が眩しい、向日葵のような女の子だ。

 ついでに私の癒しでもある。

「進路調査票。昨日までだったけど出してなかったの」

 疲れたぁ、と大きめの声で息を吐く。

 そこに翼もやってきたのでいつもの三人が揃う。

「マジか。私なんてその日のうちに出してきたわ」

「私も次の日には出したよ。近くにある大学の理学部書いておいた」

 皆さんお気楽でいいねぇ、と少し皮肉気味に答えてみる。

 それを意にも返さず翼は続く。

「そんな悩むことなくね? 頭いいんだから良い大学書いときゃダイジョブっしょ」

「まあそうなんだけどねぇ。もう少し夢を見たいお年頃でもあるわけなんですよ」

 机の上のバッグを開き水筒を取り出す。

 中身の清涼飲料水を口に含み、その甘さで少し気分が晴れた。

「複雑っぽいね。そんなひびきちゃんにはこれあげる」

 そう言って加奈はスカートのポケットに手を伸ばす。

 同時に逆の手は別の方へ。

「何これ? チョコと刷毛ハケ?」

 っていうかチョコ溶けてんじゃん……

「そう、まだ文化祭の準備終わってないからね……」

「いやメンドクセェな。これ加奈の当番じゃん」

 それに終わってないのは昨日サボった加奈が悪い。

「道連れ! 良いではないか同胞よ」

 ええい、ままよ。

 サンフラワーな笑顔とスイートなチョコに免じて許してやる。

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