第115話 地下空間の奥

 穴の下にたどり着くまで、それほど時間はかからなかった。

 開けた空間は地下室となり、中では明かりが灯されている。地上の部屋とは異なり、いまだにこの場所が使われていることを示しているに他ならない。

 

 地下にあるせいか、ひやりとした空気がサヤの肌をなめる。

 乱雑に置かれた本があたりに無数に散らばっている。

 おそらく、上の空っぽの本棚に収められていたものなのだろう。

 サヤはその中身を開くまでもなく、それが何を意味するか、大方の予想は付いていた。

 

 『蟲』についての研究。

 蟲が人間に寄生すること、それらによる人体への影響とその対処法、詳しく読むまでもなくそれらがチャノメの父親の手によるものであろうことは容易に想像できた。

 

 さらにその奥に広がる空間にあるものを見つけ、サヤはさすがに眉をひそめた。

 立ち並ぶ人の肉体――村人の言葉でいうところ穢れた亡者ネクロシスたちである。サヤは咄嗟に白鞘に手を掛けたが、動きを見せないところを見ると、そっとその手を離した。


「随分と趣味の良い人形遊びだな――、神父様」

 皮肉をたっぷりにサヤはその通路の奥へと声をかけた。

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