第114話 隠し部屋

 教会の傍らにあるせいか、幸いその周囲に村人の気配はない。彼らからしてみると、穢れた亡者ネクロシスは聖霊の力によって浄化されるべき存在、そんなものが教会の近くに現れるとは思っていなかったのだろう。

 

 中を伺うようにして扉に近づき、注意深く足を踏み入れた。

 窓から入る月明かりに、部屋の様子がうっすらと浮かび上がる。以前に見たときのように部屋の中はがらんとしたままである。

 

 だが、静かな夜だからこそわかる。足元から伝わるわずかな空気の流れ。

 サヤは床に伏せるようにして注意深く、あたりを伺った。

 視線のさきに当たるのは、空っぽの本棚。


「なるほどな」

 サヤはひとり合点がいったというようにうなずいた。

 本棚はさほど力を加えることなく、横に滑るように動き、その足元には人が通れるほどの縦穴がぽっかりと口を開けていた。

 サヤは迷うことなくそこに掛けられた梯子へと足を掛けた。

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