第111話 チャノメの父

「助かった、ありがとう。チャノメ」

「まだ、お礼を言うには早いよ」

 チャノメはベッドで横になるポメルへと視線を向けた。

 

 部屋は殺伐とした飾り気のないつくりであるが、ベッドはしっかりとしたつくりになっている。周囲には古びた本棚があり、中にはぎっしりと書物が詰まっていた。


「ここは、おじさんの診療所だよ」

 サヤの様子を察してか、チャノメが今いる部屋について説明した。

「同じような場所が村にもあったな」

「うん」

 チャノメが視線を伏せがちに答えた。


「あそこは父さんの診療所だったんだ」

「父さん?」

「父さんは村で診療所をやってたんだ。ハーフは人間たちよりも薬について詳しかったからね。それを村の人のために役立てたい、って。今ある『蟲』の知識だって父さんがずっと調べてたものがもとになってる。でも――」

「親父さんが『蟲』につかれた?」

「そう。凶暴化した挙句、村人を食い殺したんだって。それで、村の人たちの手で殺された。でも、クロハナのおじさんはありえないって言ってた。誰よりも『蟲』に詳しい父さんがそんな下手をうつはずがない、村の人間が何かしたに違いないって」


「おまえはどう思うんだ」

「わかんないよ。でも、父さんは村の人たちのために何かしたいって思ってたのは確かだから」

「それで村に薬を?」

「うん。俺は父さんやクロハナさんみたいにすごくはないけど、それでも父さんがやろうしてたことをやりたいんだ」

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