第106話 『蟲』と穢れた亡者

「すごいね、人間なのに。こんな茂みでも僕に全然遅れないじゃないか。おまけに女の子を抱えてるっていうのに」

「そう思うならもう少しゆっくりいってくれないか」

 小柄とはいえポメルを担ぎながらこうも足場の悪い獣道を進んでいくのは、サヤもさすがに苦労していた。


「その間に、その子が『蟲』に乗っ取られていいってならそうするけどさ」

「さっきからその『蟲』ってのは何なんだ?」

「『蟲』は人やハーフの体に入り込んで魔力を奪う。体内に寄生した蟲はその宿主の神経を乗っ取って、いずれはそこを宿りとして繁殖を繰り返す。やっかいな魔物だよ」

 チャノメは歩みを緩めることなく、こともなげに言った。


「村の人間たちはこれは聖霊への信仰が足りないせいだ、と言っていたが?」

「そんなわけないじゃない」

 サヤもその意見には同意だ。

 あまりにも単純なカラクリだった。そんな簡単なことを見落としていた自らを自嘲気味に鼻で笑った。


 穢れた亡者ネクロシスなどという『錆』は存在しない。

 『蟲』という存在こそがこの世界の『錆』である。

 最近になって急激に穢れた亡者ネクロシスの活動が活発になったというのも、『蟲』の活性化――『錆』による世界の自浄作用、が働いている結果と考えれば辻褄が合う。そうして、ポメルはその『錆』による影響でこのような状況になっているのだ。


 だが、状況が把握できたところで目の前で苦しむ彼女の状態が一変するわけではない。

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