第105話 村人たちの不安

 サヤがポメルを連れ出してからの村は騒然としていた。

 ハーフの穢れた亡者ネクロシスは人を喰らう。

 村人が恐れを抱き、混乱に陥るにはその事実だけで十分だったようだ。

 神父ブラッドリーの元に、村人たちが押し寄せていた。


「神父様。あの変り果てたハーフの娘と、冒険者を名乗るその連れの女を早く見つけ出さねば、これまで守り続けてきた村の平和が脅かされてしまいます」

「もし、かのものが仲間を引き連れて村に戻りでもしたら――」

 恐怖は根も葉もない妄想を生み、やがてはそれが皆の中で事実となる。


「みなさま、落ち着くのです。これもまた聖霊様が我らに与えし、苦難と試練。聖霊様を信じ、祈りを絶やさぬことです。このお姿をごらんなさい。いつ、なんどきも聖霊様は我らを見守ってくださっています」



 月明かりと蝋燭の明かりに照らされた聖霊の像が、その不確かな陰影の中に不気味なほど神々しく村人たちに変わらず慈愛の笑みを向けていた。

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