第88話 サヤ、ポメルの髪を梳かす

「しかし、それにしてもポメ子、随分とひどい有様だな」

 それはポメルのボサボサの髪の毛を見ての言葉だった。

「お祈りが終わってからも子供たちはそれはそれは元気で」

 窓に映る自分の姿を見て、彼女はあわてて跳ねた毛を整えながらつぶやいた。

「子供は好きですけど、こうも元気だと付き合うのも大変ですよ。サヤさんは全然助けてくれないですし」

「あはは、悪かったって。ちょっとあっち向いて座りな」

 サヤはポメルの体を引き寄せると背中を向かせて座らせた。

「なんですか、いきなり」

「いいから、じっとしてろ」

 サヤは何も言わずに、ポメルに櫛をあててゆっくりと梳かしはじめた。ゆっくりと髪全体を透かしていくようにサヤが手の平をあてがいながら櫛を動かしていく。その動きに従って好き放題に跳ねていたポメルの髪が落ち着いていく。

 ぴんとたった耳のあたりは少し丁寧にサヤの指がその輪郭をなぞると、ポメルはくすぐったくて、少し身をよじった。

「痛かったか?」

「大丈夫です」

「おまえ、普段からきちんと手入れしてねえだろ。獣人にゃ、髪を梳かす習慣はねえのか?」

「いいえ、そういうわけじゃないんですけど、面倒で、つい……」

 ごにょごにょと言いにくそうに口ごもる。

「サヤさんの髪はきれいだからいいですよね」

 ポメルは艶やかで、わずかに光沢をもったサヤの毛先をそっとつまむように触れた。

「それにこの色、不思議な色」

 黒く染まった彼女の髪は、光に触れるとわずかに青みがかっても見える。

 珍しいもんじゃねえよ、と言いながらサヤは手際よくポメルの髪を撫で終えると、その髪は随分と見違えるほどになっていた。

「わあ、ありがとうございます」

 鏡に映る自分の姿を嬉しそうに眺めていた。自分で手入れするよりも断然、綺麗に仕上がっている。

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