第86話 『劔』と『錆』

「そんなことが――」

 ポメルはサヤからことのあらましを聞くと深刻そうにうなずいた。

「その穢れた亡者ネクロシスというのが、この世界における『錆』なのでしょうか?」

「おそらくな。ところで、ポメ子、おまえ『錆』と『劔』の関係についてはどの程度知っている?」

 ポメルは心外だという表情でサヤを見返した。

「わたしを誰だと思っているんですか。学校は主席で卒業した身ですよ、お師匠さんからも覚えがいい、と褒められていたんですから」

 ポメルはぐいと身を乗り出した。


「いいですか、まず『錆』ってのは本来その世界において人々に害をなすような存在のことの総称です。だから、人々は自分たちの世界を守るために『錆』と戦っています。そうして、人々は徐々に強くなり、『錆』もそれ相応に強くなっていく。これは、一見すると厄介ですが、人と『錆』とのバランスがうまくいっている世界ほど緩やかに成長していくと言われていて、むしろ『錆』そのものは世界にとっては必要悪みたいなものです。問題なのは『劔』の方です。『劔』の持つ突然変異的な力は、人々の側に桁外れの力をもたらします。人々は、『錆』に対抗しうる手段を得て、優位に立てます。しかし、その圧倒的過ぎる力によって人と『錆』のバランスは崩壊、『錆』はその均衡を保つために急激に変化を起こします。その被害は『劔』を中心としてその周辺へと波及していき、その世界の人々にとっての脅威となります。そうなるとこれは必要悪を通り越して、ただの害悪でしかありません。これこそがわたしたちが『劔』の力を速やかに回収しなければならない意味なんです!!」


 最後は半ば演説気味に熱く語っていた。

 そして、言い終えるとどうだ、と言わんばかりにサヤを見返している。彼女には拍手喝采の聴衆の姿でもみえていることだろう。


「終わりか?」

「ええ」

 サヤは少し拍子抜けしていた。

 肝心な部分が抜けている。

 サヤは何かを言おうとして、口を閉じた。

 無理に知る必要はない。

 そんなものを目の当たりにする機会など起きてはいけないのだから。


「ですから、村の人間たちが穢れた亡者ネクロシスと呼ぶやつらもまだ危険性を増す可能性がありますね。村の子供たちにも危害が及ばないといいのだけれど――」

「ポメ子、目的を見誤るなよ。あたしらの目的はあくまでも『劔』だからな」

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