第76話 祈り

 いつのまにか神父の周りには信徒であろう村人たちが集まり、熱心にその言葉に耳を傾けていた。この聖霊信仰は随分とこの村に定着しているようだ。

「子供だましのおとぎ話とお思いでしょうが、祈りをささげることに子供も大人もありません。どうぞ、心を聖霊様にお預けください」

「祈りの対価に救済か」

 サヤの罰当たりの口ぶりに信徒がむっとした様子でサヤを睨んでいた。


 ――聖霊様が本当に素晴らしいお方なら、祈りの如何で救済の選別なんてしないと思うけどな。


 そんなことを思いつつも、さすがに言うは野暮と口を閉ざした。

 まあ、せめて相方の酔いの目覚めが爽快であることを心より祈るとしよう。



「もう、どこ行ってたんですか! サヤさん!」

 部屋に戻るなり、ポメルが飛びかかるように近寄ってきた。

 先ほどまでのげっそりとした様子はどこへやら。

「こいつぁ、あたしの信心の賜物かね」

 ご機嫌に左右に揺れる彼女の尻尾を眺めて、一人こぼすようにサヤがつぶやいた。

「なにか言いましたか?」

「いいや、こっちのことだ。それにしても随分と快調みたいだが、アイリスとかいったっけ? 何かいい薬でもやったのかい? こんなに酔いざめのいい薬なんかあるならあたしにも分けてほしいくらいだね」

 アイリスは静かに首を振った。

「いいえ、私はポメルさんの気分がすぐれるように聖霊様に祈りを捧げていただけです」

「『祈り』か――」

 またか、とサヤは思う。

「おかげさまでこの通りです!」

 サヤの疑念をよそに、ポメルが快活そうに腕をぶんぶんと大きく振り回した。

 相変わらずころころと表情の変わるやつだ。


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