第66話 サヤ・ポメルの帰還
「これですべて完了です。わたしたちも帰りましょうか」
サヤはそれに答えるように、紅蓮の太刀をポメルへと預けてうなずいた。
「あなたたちは一体――」
フレアが尋ねた質問を遮るように、戦場に声が響いた。
「オニだ――! まだ生き残りがいるぞ!」
禍々しい姿をしたオニたちが周囲に集まり始めている。
「どうするんだよ、もうあいつはいねえぞ」
戦場に動揺が走った。
「なあ、あんたら強いんだろう? なんとかして――」
『うろたえるな!!』
一際、力強い声に、その場にいた全員の視線がそこに集まる。
「隊長!」
自らの剣を支えとし、まだ癒えぬ傷を押さえながら立ち上がったのは、元討伐隊隊長ヘリオスだった。
「おまえたちは意志をもってこの場にいる戦士たちであろう! 我らには並外れた力も英雄もいらぬ、ただ己の信念をもって戦うだけだ。我らの世界は、我らの手をもって守るのだ!」
呼び掛けられた戦士たちは互いに顔を見合わせた。大切なことを忘れていた、と各々がその言葉に思い出したかのように。
「そうだ! 俺たちが戦わなくてどうする」
「こんなやつらに俺らの街をめちゃくちゃにされてたまるかよ」
彼の言葉に一同の心が震えた。
「ポメ子。帰るか」
「加勢しないんですか?」
「ああ、その必要はない」
ポメルは強い意志をもって脅威に立ち向かう彼らのその姿をちらりと見やると、そうですね、と返した。
異世界への門を開く陣が描かれる。
転送の光の中でサヤは思う。
きっとこの戦いも、これからも、彼らはその世界の生み出す脅威に命をかけて挑み続けるだろう。
そこには悲しみや痛みをともなうことがあるかもしれない。
時には、自分たちの理解を越えるような強大な力にすがりたくなるかもしれない。
だが、それでも彼らは自らの力でもがきながらも戦い続けなければならない。
それこそが、世界として調和のとれたあるべき姿であるのだから。
彼らと、彼らの意志を継ぐ者たちが、そうしてこの世界を守り続けていてくれるだろう。
願わくば、ふたたびこの世界に『劔』が現れることがないよう。
ただ、それだけを祈った。
第一章 完
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