第64話 回想(討伐出立前の夜)

 それは、この決戦の前、サヤとポメルの間で交わされた会話である。

「あの『劔』の中心なかごについて、ポメ子はどう見る?」

「そうですね――」

 ポメルが考え込むように腕を組んだ。


『劔』は、その力をもつことによって得られるものへの執着によって使役者と強く結びついている。その結びつきとなるものを「中心」と呼び、そのつながりを断ち切らなければ『劔』を鞘へと納めることはできない。


「中心、つまり彼が『劔』を持ち続ける理由は何か、ということですよね」

『劔』の力を持つことに意味を見いだせず、それを持つ手が緩んだときにしか、その力を剥奪することができない、サヤたちにとってそれを見極めることがもっとも肝となることである。


「お金――ってわけではなさそうですね。たとえば、こう女性にモテたい! みたいな感情でしょうか」

「まあ、それもあるだろうが、もっと大きな意味を持っていそうだが」


「そういえば、よく彼は『英雄』って口にしていましたね」

 サヤの瞳に一瞬の光が宿った。

「それだ、でかしたぞ、ポメ子!」


 自身が力を持つことが『英雄』である理由とならない。その現実を突きつけることが今回の火渡蓮司の『劔』の「中心」を崩すことに他ならない。

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