第63話 抜刀
火渡蓮司の
サヤはそれを見逃しはしなかった。
白鞘を腰に携え、居合の構えを取る。
何もない鯉口に対し、まるで抜刀するかのように右手を添えた。
すべてはこの一瞬のため。
サヤが地を蹴り、間合いを詰める。
すれ違いざまにその見えない刀身を抜いた。
静寂――。
やがて蓮司が、がくりとその場に膝を折った。
いつの間にかサヤの右手には美しい刀身を持つ刀が握られている。
それは、火渡蓮司から剥奪した『劔』の力が具現化したものである。
彼女はゆっくりと胸の前で、その刀を鞘にあてがう。
飾り気のなかった白鞘は、精巧な細工と模様が施された禍々しくも美しい姿に変わっている。
うねりをあげる紅蓮の炎をかたどり、その荒れ狂う力強さを表すかのように模様が刻まれている。
『劔』の力を納めるにふさわしい鞘を作り出す。
それが、『鞘』である彼女の力だ。
彼女が納刀する音が、その空間の静寂を貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます