第62話 蓮司の失意

「英雄ごっこは終わりだ」

「ごっこじゃねえよ、俺は『英雄』になるんだよ! 俺は特別なんだよ!!」

 


 そう。

 元の世界では、俺は何者でもなかった。

 どこにでもいるただの人。

 学校でも家でも。

 何者にもなれない。何者でもない。


 ほかのやつらとは違う、自分は特別だ。

 その気になれば――

 ずっとそんな思いを持っていた。

 だが、そんなものを幻想でしかなかった。

 

 気が付くと誘われるように俺はこの世界にいた。

 この力を持っていた。

 俺はやはり選ばれたものだったのだ。

 あんな世界に未練はない。

 俺はこの世界で『英雄』になるんだ。

 この力で――。


「はッ!? 自分は特別な存在? うぬぼれんなよ。そんな人間なんざ、どこの世界にもいねえんだよ」

「うるさい。だまれ!」

「みんな、てめえのその足で地面踏みしめて必死に生きてんだ。いろんなものを奪われたり、失ったり、それでも世界に失望したりしない。その世界で自分の道を全うして生きてくんだよ」

「だまれって言ってんだろ!」

「おまえみたいに逃げるだけの空っぽな人間のことなんざ、誰も認めやしないんだよ」

 蓮司が否定するように力なく首を振る。

「だから、お前はその力にすがるしかなかったんだよな」

「俺は――」

「でもな――


そんな力を持っててもおまえは『英雄』なんざなれやしねえ!

おまえは自分勝手で、甘ったれで、どうしようもねえクズなんだよッ!!!」

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