第58話 愉悦する英雄

 俺はまだ熱を帯びる大剣をことさらに大きく天へとかかげた。

 背後にいるこいつらに俺の偉大さを見せつけるには格好の位置取りだ。

 

 この戦いの勝利の暁にはフレアを嫁にもらうかな。それとも王国とやらにいってもっとかわいい子を探すのもいいな。

 そのときはフレアは側室にでもするか、たかが地方領主の娘だ。

 それくらいちょうどいいかもしれない。


 ああ、ついでに王国とやらも俺のものにしてみるのもいいかもな。

 夢と期待は膨らむばかりだ。

 

 さすがは異世界召喚! 

 

 さあ、存分に「英雄」を称えるがいい。


 響き渡る喝采。

 俺を称える声。

 崇拝の眼差し。

 勝利への賛歌。

 ―――。

 ―――。

 

 ところが、いくら待っても何も起きない。

 俺に浴びせられるべきであろうものが、どれも湧き起こらない。


「なんだ、俺の力にみんな声もでねえか?」

 さすがにやりすぎて、ドン引きってか?

 

 こんな体勢でじっとしているのも楽じゃないんだぜ。

 冗談交じりに笑いながら後ろを振り返る。

 

 

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