第57話 蓮司の思惑

(サヤさん! あそこに――)

 ポメルがサヤの背後から呼びかける。

 彼女が蓮司の姿を捉えるのと、ヘリオスの体から赤い鮮血が舞うのは同時だった。

 

 ポメラは伏せる体に駆け寄る蓮司のつぶやきを聞き逃さなかった。


 ――どうして


 

 ――どうして、こうも簡単にいくかなあ。

 


 蓮司の伏せた顔は、ひどく邪悪に笑っていた。戦場ではその顔に気付く者はいない。

 

 ――あんた目障りだったんだよ。後ろの連中みたいにさあ、俺のことをおとなしく認めて、崇めて、称えてればこうはならなかったのになあ。これで小うるさい奴もいなくなってラクになれるってもんだぜ。おまえのオマケみたなあの連中もあとで適当にしといてやるから心配すんな。


 彼はヘリオスを蔑むように、その姿を見下ろした。


 蓮司のまわりに信じられないほどの力が高まっていく。


「おい、ヘリオスさんを頼む!!」

(まあ、もう手遅れかもしれないけどな)

 にやりと口元を緩ませる。

 

 彼の心の高揚に呼応するように大地が揺れ、その力は彼のもつ大剣へとうねりをもって集約し始めていた。やがて、その力を解き放つように大剣を振るうと、その軌道に沿うようにして周囲が放射状に薙ぎ払われる。そこにいたオニたちは一瞬のうちに蒸発した。

 

 立ち込めていた暗雲は裂け、その隙間からは神々しいほどの陽光が降り注ぐ。

 周囲から見れば、まるでヘリオスを撃たれた悲しみに、蓮司が秘めたる力を覚醒させたかのようにすら見える。

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