第53話 オニの棲家まで出立~行軍

 翌日、まだ日も昇らぬ早朝にもかかわらず、屋敷は慌ただしく出陣の準備が整えられる。隊を形成したころ、朝の陽光に照らされながらプロミネンス領を出立する。

 

 領より南下した湿地帯、「瘴気の沼」と人々が呼ぶその場所が今回の討伐部隊の目標地点である。

「オニどもはそこから現れ、周辺の村々を襲いながら我が領土へと迫っているようです」

 道中でヘリオスがサヤにそう説明した。


「よかったのか? あいつに隊長を譲って」

「サヤさんほどの腕前ならば、どちらの腕が確かであるかなど見抜くことはたやすいことでしょう」

「でも、実力と隊を率いる力は別物ではありませんか?」

 ポメルが口を挟む。


「もちろん、その通りです。ただ、彼の持つ力はそうした常識すら凌駕している」


「――そうだな、だ」

 サヤの不思議な言い回しに、彼は少し驚いたように見返した。

「世界の常識の外、ですか。たしかにそうかもしれませんね」

 


 あたりが急激に暗くなる。

 オニの領域に足を踏み入れたのだろう。

 遠くに怪しく眼光ひかる無数のオニの姿が確認できた。無法の侵入者であるこちらの姿を眺め、品定めをしているかのようにも見える。

 それを合図としたかのように、ヘリオスは剣を抜いた。


「あとのことは任せます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る