第47話 ヘリオスは屈辱に打ちひしがれる
アポロンの言葉が何を意味しているのか、ヘリオスはすぐに理解した。
『力のある若者』。
昨日の戦場での功績を聞き及んだのだろう。
たしかにあの火渡蓮司という青年の力は、自分を遥かに凌駕している。だが、未来を託すべき若者とは、昨夜自分の腕の中で息絶えた兵士のように、必死にもがき、戦い、生きてきたあのようなものたちのことではないのか。
「レンジ殿に今回の討伐隊の全指揮を任せ、これを機に近衛隊隊長の座を任せたいと思っている」
ヘリオスは、はっと顔を上げた。
「それはつまり――」
「もちろん、おまえの気持ちも十分にくみ取ってはやりたい、だが、昨日肩をやられたのだろう? そのぼろぼろの老体に前線で指揮をさせるのはわしとしても耐え難い。わしとおまえは性格や才は全く違うが、それでも血を分けた兄弟だ。むざむざと死においやるようなことはしたくない」
昨日の戦場の光景が思い出される。
皆の喝采を浴びるあの青年の姿。
あのとき、不敵に笑ったように見えたのは自身の見間違いだったのだろうか。
「兄上の頼みといえども承諾できません」
アポロンは首を振った。
「これは、兵士たちからの願いでもあるんだ」
ヘリオスは驚いたように顔を上げた。
「彼を隊長とし、近衛隊をさらに強いものにしていきたい、と申し出があってな」
屈辱をかみしめるように拳を握った。
「そういうことであるなら」
絞り出すようにそう伝えると、その返事を待たず踵を返した。
扉を開いた先で、あの青年――火渡蓮司と出くわす。
ヘリオスはその姿を一瞥すると、足早にその場を去った。
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