第46話 戦いの翌日、隊長ヘリオスと領主アポロンの口論

「兄上!」 


 血みどろの戦火のさなかから一夜明けた、プロミネンス家の一室にて、ヘリオスの怒号にも近い声が響きわたった。普段、温和な彼がこんなにも声を荒げることはこれまでになかったことだ。


「このような状況の中でオニの討伐なぞ無謀です」

「ヘリオス、おまえが昨夜の戦いで部下を失った悲しみは私にもわかる。我がプロミネンス家とその領のために命を賭した若い兵士たちのことは私も残念でならない。たが、我々がここでその禍を打ち滅ぼさねば、もっと多くの命が失われてしまうのは、お前もわかっているだろう」


「しかし、何もこんなに時期尚早に動くこともありません。昨夜の戦闘で負傷した者たちもいます。それに援軍として期待していた王国軍は壊滅状態、傭兵たちの中には手を引くと言っている者もいます、明らかに戦力が足りません」

「もとより王国軍はあてにはしておらんよ。夜襲で壊滅する軍など戦力に数えるに足らん。王都のメンツを保つために援軍の申し入れを受け入れたにすぎん。傭兵どもも臆して使えない人間がいなくなるだけならむしろ好都合、無駄な出費を抑えられるというものよ」


「兄上は、あの惨状を目にしていないからそのようなことが言えるのです。あそこに現れたオニどもはこれまでのものとは一線を画しています。凶悪で凶暴、残忍さが以前とは比べ物になりません。昨夜だけではありません、ここ一月ばかりに出会うオニたちは著しく強力なものばかり――」 


「ヘリオスよ。貴様は、老いた。もちろん、わしもそうだ。だからこそわかる。なあ、力ある若者に未来を託していくのも先人の役目というものだと思わんか」

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