第43話 ヘリオスの嘆き

「隊長!」

「おまえたちをそんなに軟弱に鍛えた覚えはない!」

 鼓舞された兵士たちは再び力を振りしぼり立ち上がる。その手に握りしめた刃を振り上げた。


 瞬間、彼の表情が苦悶に歪む。

 背後から現れたもう一体のオニの鋭い爪が彼の腹部をえぐりとる。

 爪の先からは鮮やかな血がしたたり落ち、その肉体は痙攣するようにわずかに震えている。


「おのれえええええ!」

 怒り任せにヘリオスが突進し、狂乱するように振るう刃はオニの腕を切りとした。

 ヘリオスがその肉体を受け止める。


「隊長、も、もうしわけ――」

 言葉は最後まで続かない。

 ヘリオスは、その亡骸を横たえると、片腕でなお戦意を失わないオニへと突撃する。牙をその肩に突き立てられようと、身動きもせずその胸へと何度も刃を突き立てる。

 

 幾度目かの刃により、オニはようやく崩れ落ちるように倒れ伏した。

 それを見届けると、荒い息遣いのまま、自身の肉体の損傷を顧みることもなく、次の戦場へと駆けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る