第39話 オニとの遭遇

 野営の準備を進めていたところを襲われたのかもしれない。既に事切れた兵士たちの無残な姿がそこいらに見てとれる。

 

 進軍していた近衛隊が、ヘリオスの合図で立ち止まった。

 整列する軍を嘲笑うように、燃え上がる火の手の中にゆらゆらと無数の黒い巨体が影となって浮かび上がった。

「あれが『錆』――」

 オニ、人に害をなす存在――。

 ポメルは怯えた様子で、サヤの体につかまる手に力が入った。


「全軍に告ぐ! 負傷者を救助し、あの化け物どもを掃討するのだ!」

 うおおおおおおおお!

 ヘリオスの指示に合わせて、怒号とともに兵たちが突撃する。

 だが、サヤはその場に馬をとめたまま、様子をうかがっていた。


「行かないんですか?」

「あたしらの目的は『錆』じゃない、そうだろ?」

「でも、そしたらここの人たちが……」

 ここでオニたちが『劔』もろともここの人間たちを殺してしまったならば――。

 サヤの脳裏に火渡蓮司の顔が過ぎる。


 それはある意味ではサヤたちの仕事は完了したということになる。


「まあ、酒の借りもあるしな、それに――」

 それほど簡単に『劔』が片付くとも思えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る