第9話 『劔』ザコをぼこす

 青年がその紅蓮の大剣を軽く振るうだけで、その切っ先から炎が舞い上がる。

「やるってんなら、この英雄サマが相手になるぜ」

 青年の顔が不敵に笑った。


「わ、わかった。降参だ!」

 リーダー格らしき男はへらへらと片手をあげて、あとずさる。

「意外と素直なんだな」

 だが、その反対の手に握られているものをわたしは見逃さなかった。


「危ない!」

 わたしが声をあげるのと、男がその凶器を青年にむけて放るのは同時だった。


 男の投げたナイフはまっすぐに青年に向かって突き進むが、それは彼に届くことなく真っ黒な消炭と化した。青年が振るった切っ先がまばゆい光と熱量をはらんで、ナイフもろともくらい尽くすと、男の顔の横を突き抜けた。


 男の頬からはわずかに黒煙が上がっている。あわあわと口をあけて、言葉にならない。

「く、くそ! 覚えてろよ!」


 男たちは散り散りになって瞬く間に、その場から姿を消した。

「わかりやすくザコの台詞だな」

 青年は苦笑いをしたあと、その大剣を肩に担ぐと私の方へと近寄ってきた。


「さて、大丈夫かい?」


 わたしはその光景を目に、その場から動けなかった。



――その彼の持つ力が、まごうことなき『劔』であると確信したから。



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