第5話 サヤは酒を飲んでたい。

「行くってどこへ?」

 サヤは露骨に嫌そうな顔をした。


「調査です! 『劔(つるぎ)』を探しに街に出るんです。ただでさえ、あなたを探すのに半日以上を費やしてしまったんですから。こんなところでのんびりとしている暇はないんですよ」


 それを聞いて、かっかっかとサヤは大きく笑った。

「そいつはすまなかったな、ほんとはちょいと一杯飲んだら戻って待ってるつもりだったんだが、ここの世界の酒は聞いていた以上にうまくてな、ついつい飲みふけちまったよ」


 悪びれもせず言ってのける様子に、ポメルはげんなりと肩を落とした。

 こんな人とうまくやっていけるのだろうか。不安を拭うかのようにぶんぶんと首を振ると、気を取り直して部屋から出ようとした。


「待ちな。ポメ子」


「ポメ子!?」

 突然の呼び名に、心外だとばかりに耳が大きく動いた。


「今から出てったって大した情報も出てこねえよ」

「『劔』は恐ろしい存在なんですよ。どこかで――」

「知ってるよ」

 サヤのまとう空気が一瞬、とても冷たく感じられ、ポメルは言葉を止めた。


「それに、今夜は外には出るわけにはいかないんだ」

 窓の外から夜空を見上げると少し遠くを見つめるように目を細めた。

 立てつけの悪い窓が夜風にカタカタと音を立てる。


「なんたって、ここの親父がめったと手に入らないカブトクラゲの干物をくわせてくれるって言ってんだよ。酒のつまみにゃ最高って話だからな。さすがにこいつぁ、逃せねえよな」

 サヤはなんとも嬉しそうに酒をあおる仕草をしていた。


「――っ、もういいです!!」

 ポメルは扉を勢いよくあけると、飛び出すように部屋を後にした。

「あ、おい。」


「ったく、冗談の通じねえやつだな」

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