第3話 サヤは酒場で酒盛りをし、見つけたポメルを酔いつぶす。
「親父ぃ! こっちにも酒追加!」
まだ手元の酒も飲み干さないうちにサヤは大きく手を振って店主に向かって叫んでいる。
酒場という男くさい場所にあって、艶めく真っ黒な長い髪の彼女は随分と周りの目を引いていたが、それ以上にテーブルには随分と飲んだであろう空の酒瓶が何本も転がっており、周囲の人間はさらに目を丸くしていた。
当の本人はそんな好奇の目などお構いなしに、まだまだ飲み足りてない様子だ。
うっすらと赤みがかった頬は、ほろ酔い程度にしか見えない。
「お客さん、見たところこの辺の人間じゃなさそうだけど、お代は大丈夫なんでしょうね」
「あたしに金の心配なんかいらねえよ」
しっしと追い払うように手を振ると、豪快に瓶ごと持ち上げて片手で一気に煽った。
「それなら、いいんですが」
半信半疑の店主はそれ以上は何も言わずに引き下がろうとしたところに、店の扉が勢いよく開かれた。
酒場全体に響くほどの勢いに、その視線が一斉に扉をあけた主へと向けられた。
頭からすっぽりと外套を羽織った人物が、店の入り口で仁王立ちするようにして店内を見渡している。フードのせいではっきりとは見えないが、これまた酒場に似つかわしくない年端もいかない少女だろう。店主が怪訝な表情で声をかけようとしたところに、少女はずかずかと歩み寄ってきた。
店主が声をかけるより先に、その脇をするりと抜けるとサヤのテーブルに両手を叩きつけた。
「こんなところで一体何をしてるんですか。私と合流するまで召喚場に待機することになっているでしょう。それが、勝手に先に行ったと思ったら、どうしてこんなところで呑気にお酒なんか飲んでるんですか!!」
サヤは突如食って掛かる少女をものともせず、そしらぬ顔でその言葉を聞き流していた。
「だいたい、あなたは『鞘』の仕事をまっと――んぐぐ」
ポメルがしゃべり終わるより先にサヤはその口に酒瓶の口を差し込んだ。
「キャンキャンうるせえな、酒がまずくなるからちっとは黙ってろ」
勢いあまってそのほとんどを飲んだポメルは顔を真っ赤にしたあと、今度は目を白黒させたままその場に卒倒してしまった。
「あんた、下戸かい」
呆れたようにサヤは頭をかいた。
「ったく、しゃあねえな。おら、親父、奥の部屋借りるぞ」
その場に卒倒したポメルを乱暴に抱き上げる。その拍子に頭のフードがはらりと落ちて、その頭部に獣の耳が現れた。サヤは、ほうと物珍しそうな声を出すと彼女を抱えたまま奥の部屋へと運んで行った。
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