4 オンラインデートしよ!【莉緒】

 私、一押しのアーティストのライブが、イベント自粛要請を受けて延期になった今日。こーくんが、オンラインデートに誘ってくれた。

 延期が発表された日、悔しさの中にも前向きさの滲む、ファンへ向けたメッセージに感動した私が、こーくんに彼の素晴らしさと、この行き場の無い思いを切々と訴えたからかも。

 今思うと、気を遣わせちゃったかな。


 ライブには行けなかったけど、デートはできて。友だちとは会えなかったけど、こーくんと会えて。

 複雑だけど、自分にとっては、どちらも大切にしたいものだって再認識した。


「あぁぁ、今聴くと余計に泣いちゃいそう」


「うん、僕もこの曲は良いなって思うよ」


 映画とランチの後、こーくんからの希望で、一緒にそのアーティストの無料公開されてるMVを観た。デビュー作であり、私の一番好きな曲。


 本当なら今頃、目の前で聞けてたかもしれないのに……。


「でしょ? はあ、やっぱり生で聴きたかったなー」


「でも今、延期の予定なんだよね? 大丈夫。楽しみが少し先に延びただけだよ」


「うん、だといいけど……。なんか今、音楽業界もいろいろ難しいみたいだし、私が休めるかも心配だし、何より、今回チケット取れたのだって奇跡に近かったのにー!」


 あぁ! この前もこんな調子で、散々こーくんに宥められたばかりなのに。今日は言わないって決めてたのに。

 当のこーくんは、今日ぐらいいいよって甘やかしてくれるから、甘えちゃう!


 ちょうどその時、ラインの通知音が鳴った。反射的に、パソコン横のスマホを見てしまう。

 見てしまった。


「あ、待って! 今夜、生配信あるって友だちからライン来た! もしかして、生で歌ってくれるかも!」


 あまつさえ叫んでしまった。大興奮しながら。


「……じゃあ、今日のデートは終わりにしようか」


「え、何で?」


「莉緒、元気出たみたいだし、今は友だちと話したいこといっぱいあるだろうし、時間的にも頃合かなって。僕も莉緒と話せて楽しかったし。またオンラインデートしよう」


 ヤバイ、これは……。

 えーと、イケメンに嫉妬? 私に怒ってる? 単純に拗ねてるとか? いつもの優しさ……なのかな。


「待って、こーくん!」


「ん?」


 そうだ。まだこーくんには、言って無かったんだ。


「あのね。彼にはね、こーくんと出会ってからハマったの」


「……うん?」


 分かんないけど、今、言った方がいい気がする。


「この曲のおかげでね、こーくんに気持ち伝えようって、勇気もらえたんだ。これとこれと、あとこれも! 全部、私のこーくんへの気持ちを歌ってくれてるみたいだったから」


「え?」


 示したスマホの中の、私のお気に入り曲の一覧。


 恥ずかしいくらいの大好きと、届かない切なさが詰まった歌詞。振り向いて欲しい想い。あなたの一言で、馬鹿みたいに元気になれる、単純な私。

 今でも共感し過ぎて、聞く度に泣いてしまう。


「あ、でも、この片想いの曲は、これから先もずっと、思い出の曲でいいんだよね?」


 真面目で、恥ずかしがり屋で、ポーカーフェイスのこーくん。


「……ええよ」


 って、小さな声で言ってくれたその顔は、伏せられててよく見えなかったけど、私も顔を上げられなかったから、しばらく自分の胸の音を聞いてた。

 こーくんも、同じ鼓動を聞いてるといいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る