Sky turn Sky tune
ほのかは空になったお弁当箱のバッグを持ちながら廊下を走った。
答えはいつもすぐそばにあった。
あの二人といつも居るのが楽しかった。
居心地が良くて、今の関係に甘えていた。
ほのかは今一歩、自分から前に進みたいと思った。
そして、前方を歩いている陽太と冬真と愛華を見つけた。
ほのかはすぐに追いつくと、引き止めたくて陽太の背後からシャツを引っ張った。
「おわっ、月島さん!? 慌ててどうしたの?」
陽太は肩を上下させて、いかにも走ってきたかの様なほのかを見て言った。
ほのかはスケッチブックを手に取った。
そこで筆が止まった。
今更ながら、何を書こうかと迷っていた。
今よりも仲良くなりたい?
友達第一号二号三号になって?
考えれば考える程混乱し、恥ずかしくなり、困惑した顔でスケッチブックとにらめっこしていると肩を叩かれた。
目線を上げるといつもの優しい笑顔の陽太が言った。
「月島さん、予鈴鳴ったからそろそろ教室行こうか」
「あ、じゃああたしも自分の教室に戻るから~」
そう言って愛華は一足先に奥の教室へと戻って行った。
予鈴と言われて、音の聞こえないほのかはもうそんな時間になっていた事に初めて気がついた。
ほのかは陽太に付いていき、とりあえず教室に戻る事にした。
冬真はそんなほのかの後ろ姿を真面目な表情で見詰めていた。
ほのかの腕に揺れるお弁当のバッグ、冬真はそれが気になっていた。
その後、午後の授業になり、ほのかはずっと伝えるタイミングを逃していた。
【次のページめくってだって】
陽太はいつも通りメモでページ数を伝えたり、授業でほのかのサポートをしていた。
【いつもありがとう】
ほのかは自分のメモでそう書いて渡した。
そこでほのかは思いついた。
陽太だけでも先に友達になって欲しいとメモを渡せばいいだけだ。
早速メモに書こうとした時、陽太からメモを渡された。
【お世話係としてトーゼン!】
勿論それは嬉しいと思ったが、その『お世話係』の文字にどこか無機質で、機械的で、言い知れぬ寂しさを感じていた。
そして出しかけたメモはそのままポケットにしまい込んだ。
化学の時間、教室を移動し、ほのかは冬真と同じグループになった。
冬真はテキパキと先生が言った事が分かりやすいようにほのかのプリントに書き込みを加えてくれた。
いつも無表情に近い反面、優しいところもある冬真なら友達になってくれるだろうかとほのかは思案した。
【ありがとう】
冬真はチラとスケッチブックを見ると伏し目がちに言った。
「別に・・・・・・お世話係だからな」
『お世話係』その単語にほのかは浮かない顔をした。
分かっていた。
二人がいつも親切なのはお世話係だからであって、友達だからではない。
そしてそれが二人の重荷になっているんじゃないかとほのかは心配になった。
「どうした? 分からないところがあれば教えるけど」
【大丈夫】
ほのかは心配かけさせまいと笑ってみせた。
それからも、ほのかは話を切り出そうとするもとことんタイミングが合わず、放課後になってしまった。
「授業終わったー、月島さん帰ろっか」
陽太はいつもの様に一緒に帰ろうと声を掛けてくれた。
「そう言えば、月島さん、お昼何か話があったんじゃなかった?」
冬真が二人に近づきそう言った。
「ああ、そう言えば! ごめんごめん、話なら聞くからさ」
陽太がに明るく笑ってそう言うので、ほのかは今なら言い出せそうだと思った。
だが、そうは問屋が卸さなかった。
「おーい、春野、それからもう一人・・・・・・氷室でいいか、ちょっと職員室まで来てくれないか?」
二人を呼び出したのは担任の福島先生だった。
「ごめん、ちょっと行ってくる。多分すぐ戻ると思うけど」
「先生が面倒な事を頼んでこなければだろ? ごめん、行ってくる」
二人は口々にそう言い、ほのかは教室に取り残された。
また言い出す機会を失ってしまった。
一人ぽつんと教室で待っていると教室に愛華がやってきた。
「あれー、二人とも居ないんだ? せっかく一緒に帰ろうと思ったのになー」
愛華は一人取り残されたほのかを見て何かを思いついたのかニヤリと笑った。
「ねえ、月島さん! たまには女同士で一緒に帰らない?」
女同士で・・・・・・そんな友達っぽい響にほのかは心が揺れた。
【でも二人が戻ってきてなくて】
「あー、それならあたしから二人に連絡入れとくからさー」
愛華はスマホを取り出すとサクサクとメールを打ち始めた。
「はい、完了ー、さっ、行こ行こ!」
なかば強引に、ほのかは愛華に連れ出され教室を出た。
ほのかは愛華と二人で帰るのが初めてで少し緊張しつつも、今時の女子高生と帰るのはどんな感じになるのだろうかとソワソワしていた。
仲良くなれたらゲームセンターでプリクラを撮ったり、カフェで女子会的な事をするのだろうかと想像した。
ふと、愛華の方を見ると愛華と目が合った。
「ねえ、月島さんさー、ちょっと元気無い様に見えるけどどうかしたの?」
ほのかは悩んでいる事を顔に出さないようにしているつもりだったが、愛華にはあっさりと悟られてしまい驚いた。
やはり女性だから鋭いのだろうか等と考えた。
【大丈夫】
「えー、そうかなあ、あたしで良ければ相談乗るよ? あ、そこにカフェもあるしさー、行こ行こ!」
ほのかはまたも強引に愛華に連れられ、気がつくと憧れのカフェでカフェ・オ・レとパンケーキを食べていた。
「やーん、ふわっふわっで美味しい~」
愛華とほのかはフルーツと生クリームたっぷりのふわふわ生地のパンケーキに舌鼓を打っていた。
【これが伝説のパンケーキ!】
ほのかはいつぞやの部活探しの時にパンケーキを焦がし、失敗したのをずっと悔しく思っていた。
パンケーキをこんなにも美味しい物だとは思わずほのかは感動していた。
「あはは、伝説とかマジうけるー、なんの伝説よ」
愛華はケラケラと笑いながらスマホを弄り、コーヒーを飲んだ。
これが今時女子高生ライフというものだろうかとほのかはぼんやりと考えていた。
だが、すぐにほのかは今時女子高生ライフから現実に引き戻された。
「で? そろそろ何を悩んでいるのか聞きたいんだけど?」
ほのかは喉の奥にパンケーキを詰まらせそうになった。
ゆっくりと飲み込むと、ほのかは愛華に全てを打ち明けた。
「なるほどね、友達ねぇ・・・・・・」
そう言いつつも愛華は内心では、友達なんてガキ臭いと思っていた。
だが、それを利用しない手はないと考えていた。
「だったらさー、いっそのこと、お世話係やめてもらえば?」
【?】
ほのかには何故愛華がそう言うのかが分からなかった。
あの二人にお世話係をやめてもらうだなんて考えてもみなかった。
「だってさー、友達になりたいんでしょ? だったら、お世話とかそんな事させるの変でしょ?」
そう言われて、ほのかは一理あるような気がした。
ずっと心のどこかでモヤモヤを抱えていた。
二人は自分のせいで『お世話係』という肩書きを付けられて縛られている。
だったらそんな肩書きは取り払って解放すべきなのかもしれないと考えた。
「簡単よ、ちょっと勇気を出して、お世話係なんて要らないって言うだけなんだから。ね? 月島さん、頑張って?」
愛華はさもそれが正しいと思わせるようなにこやかな笑顔で言った。
【ありがとう! やってみる】
ほのかは早速明日そう話してみようと決心した。
「・・・・・・たーんじゅん」
愛華は口元を手で隠し、笑いを堪えながら呟いた。
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