第2章

第13話 アーレンバレス王国

《???》



 私は歩いている。


 どこへ行くとも知らず、ただひたすらに歩いている。


 私に居場所なんてない。


 こんなの手じゃ、誰かに愛してもらえる資格なんてない。


 幸せになる資格なんてない。


 どうしてこんな力を持ってしまったんだろう。


 こんな力、いらない。


 そう思っても、このはずっと私を愛し続ける。


 父様、母様。


 私のせいで……。


 私はひとりだ。


 もうこれ以上誰にも迷惑をかけたくない。


「……ここなら大丈夫かな」


 次にもし、人に生まれ変わるなら。


「父様、母様、ごめんなさい」


 私は、自分自身にを使った。



◆◆◆



《ヴィオラ視点》 



「…ラ、ねえ、ヴィオラ。大丈夫?」


 心地よい揺れを感じる。


 体を揺すられているみたいだ。


 グレア、もう少し寝たい……


 でも、わたしを起こすってことは、何かあったのかな。


 わたしは緩慢な動きで体を起こす。


「おはよー、グレア。どうした、の……?」


 その時初めて気がついた。


 わたしは涙を流していた。


「えっ、え、なにこれ」


「ヴィオラ大丈夫?嫌な夢でもみた?」


 夢……


 そういえば、少し嫌な夢を見たような、見てないような。


 グレアが心配そうな目をこちらに向ける。


 わたしは涙を拭う。


「変な夢を見た気がするけど、覚えてないや」


「んー、そっか。はいこれ、お水もらってきたから」


 グレアがわたしに水の入ったコップを差し出す。


「ありがとう。んくっ、んくっ」


 一気に飲み干してしまった。喉が乾いていたみたい。


「リュカさんに聞いたら、もうすぐ王都に着くってさ」


 そうだ。王都に行く最中だったんだ。


「……楽しみだなぁ」


 わたしはそうこぼし、馬車から見える風景に意識を預けた。



◇◇◇



 わたしとグレアは助けられたあと、リュカねえと話をした。

 その結果、リュカ姉にふたりとも保護されることになった。


「ここまで暗いと馬車も走ることができないからな。明日早朝でここを出る。それまでしっかり休んでおくんだ、いいな?」


「「はーい」」


 わたしとグレアは手を上げて返事をした。


「……ではまた明日。おやすみ、ヴィオラ、グレア」


 リュカ姉は顔を向けることなく出て行った。

 

 どうしたんだろう。


「明日早いんだって。はやく寝ないとね」


 グレアがわたしのベッドから、自分の寝ていたベッドに戻る。 


 早起きできるかな……

 なんてったってわたしの記憶じゃ、寝るのは初めてだし。


「そうだね。おやすみー、グレア」


「おやすみ、ヴィオラ」


 疲れていたからか、すぐに眠りにつくことができた。



 そして朝。

 

「……ふたりとも可愛い過ぎるな」


 誰かの声が聞こえた気がした。


「ふぁ〜。おはようございます、リュカさん」


「!?……おはようグレア。


 ……聞こえていたか?」


「ふぇ?なんのことですか?」


「いや、特に意味はない。気にしないでくれ」


 2人のやりとりを聞いていると、わたしも眠気が覚めてきた。


「おはよー、グレア、リュカ姉」

 

「ああ、おはよう、ヴィオラ」


「おはよー、ヴィオラ」


 なんだか変な感じ。


「ふふ」


「何かいい夢でも見たか?」


 リュカ姉がわたしに目線を合わせる。


「夢じゃないの。昨日は大変だったけど、今はすごく幸せだなって」


 すると、リュカ姉が遠慮気味にわたしの頭を撫でる。


 気持ちいい。


 リュカ姉に頭撫でられるの癖になりそう。


 あ、グレアも撫でられてる。

 

「ヴィオラ、それにグレアも。人は誰しも幸せになる権利があるんだ。だから今後は、もっと自分の幸せを追い求めると良い。私でよければ力になるからな」


 そっか。誰しも幸せになる権利がある、か。


 リュカ姉に助けてもらえてよかったと心から思えた。


「さて、そろそろ出発するぞ」


 リュカ姉がテントを出ていくので、わたしとグレアも慌てて追いかけた。



◇◇◇


 わたしとグレアはリュカ姉と3人で他の人より先に、王都に向かうことになっている。


「あ!見えたよ、ヴィオラ!」


 グレアが馬車から身を乗り出して前方を指差す。


「あれがアーレンバレス王国だよ!」


 わたしは彷徨さまよっていた意識を戻し、グレアの指差す方向に目をやる。


「……すごい」


 そこには、端が見えないほどの白亜の防壁がそびえ立っていた。

 

「でしょ?初めて見る人はみんなそう言うんだって」


 これはすごいとしか言えない。

 

 周辺諸国と比べても、圧倒的に広大な面積を誇るアーレンバレス王国とは聞いていたけど。

 

 それに、防壁の上に監視している人が見えるけど、砂粒のように小さくて表情まではわからないくらい高い。

 さすが世界でも有数の大都市国家。


「ふたりとも、危険だから乗り出すのはほどほどにな。このまま検問所まで行くぞ」


 御者席に座って馬を操っているリュカ姉が窓越しに言う。


「「はーい」」


 大人しく座る。危ないしね。


 ガタ、ゴト、ガタ、ゴト。


 わたしの記憶じゃ初めての街だ。


 馬車の走る音を聞いていると、わたしの鼓動も駆け足になっていく気がした。

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