第12話 天使と悪魔、序列2位の女騎士に拾われる。

《ヴィオラ視点》


「わたしって黒の女神様?」


 リューカさんの話を聞いてそう思った。


 だって、わたしの髪は向こう側が透けて見えるくらいの白金色だし、目も青色なんだそう。

 美貌ってのはよくわかんないけど、まあそうなんだろう。

 それに記憶もないしね。


 黒の女神様要素満載である。


 リューカさんはその栗色の目を見開いてわたしを見ていた。


 しまった。まっすぐ言いすぎたかも。


 すると、リューカさんがこめかみに手を当て、ため息をついた。


「……君の皆を思う気持ちやグレアへの親愛の情を信じてここまで話してきたが、まさか、そこまで素直だとは思わなかった」


 なんだが褒められてるようで貶されてる気がする。


「君がわからなければ誰もわからないというのが現状だ。私は状況からそう判断して、君の記憶を揺さぶるよう仕向けたんだが……」


 記憶、ね。まるで揺さぶられなかった。なんでだろう。

 わたしは首を傾げて唸る。


「むー」


 突然リューカさんが胸を押さえた。大丈夫だろうか。


「クッ…!……その様子だと記憶はなにも戻ってきていないようだな。まあ、それは今後ゆっくり考えると良い」


 今後?

 

 そうだ。


 さっきリューカさんに聞きたかったことがあるんだ。

 するとグレアも同じことを思ったのか、不安げな表情でリューカさんを見上げる。


「……あの、リューカ様。

 ぼくたちって今後どうなるのですか。

 ぼくは、奴隷として売られましたし、元の家にも帰りたいとは思えないです」


 奴隷として売られた、か。

 

 グレアはやっぱり、相当辛い目に遭ってきたんだろう。

 

「そうだな。ちょうど今話そうと思っていたところだ。今後に関してだが……」


 グレアの手を握る。


 少し震えている。


 そうだね。わたしも不安だよ。


 ふたりしてリューカさんを見上げる。


 リューカさんは軽く息を吸い、少しぎこちない笑みを浮かべた。




「ふたりとも、良ければ私と一緒に暮らさないか」



 

 隣でグレアが鋭く息を吸う音が聞こえた。


 リューカさんが、わたしたちの目の前に手をかざし、指折り数える。


「まず、異能持ちについてだが、選択肢が三つある。


 一つ目が、アーレンバレス王都にある『黄牙おうがの連塔』という、主に狩猟や討伐、護衛といった任務をこなす組織に入ること。


 二つ目が、創造神を崇拝する『ルーアマティアス聖教会』に修道士見習いとして住み込むこと。


 三つ目が、『アーレンバレス王立学園』に入学し、寮に入り、勉学に励むこと。


 この三つが主な異能持ちたちの身の振り方だろう」


 ふむ。どれがいいのかさっぱりわかんない。

 

「今回の事件で身寄りのない子供たちが増えた。

 ただ、それは心配いらない。騎士団が責任を持って子供たちの支援をする手筈となっている」


 みんなのことも不安に思っていた。


 そっか。それなら安心だ。


 銀翼の騎士団、いや、リューカさんならきっと言葉通りみんなを助けてくれるんだろう。

 

 そんなことを思っていると、ふいに背筋に怖気おぞけが走った。


「だが、だ」


「……ッ!」


 目の前のリューカさんからまるで別人のような空気を感じる。


 それだけじゃない。

 

 リューカさんの肩辺りから白銀に煌めく光が立ち昇り、まるでが生えているように見えた。


 この姿こそ、『銀翼』の騎士団副団長の姿なんだろう。


 わたしとグレアはごくりと唾を飲み込んだ。

 

「私には、アーレンバレス王国を守護する者としての責務がある。

 君たちのような危険分子になりえる存在を、あらかじめ排除するのも私たち騎士団の仕事だ」


「「……」」


 言葉が出ない。


 おそるおそるグレアを見る。


 グレアもわたしを見ていたようで、視線が合う。


 ど、どうなっちゃうんだろう。

 

 ふたりして動揺していると、ふいにリューカさんの雰囲気が和らいだ。


「だが、まあ、これまで君たちふたりと話して、はならないだろうと判断した。

 ……よって、私が責任を持って、君たちふたりの成長を見守ろうというわけだ」


 リューカさんがニカっと笑う。


 ……ぅう。


 ……ぅうう。


「「うわーーん!」」


「ちょ、ふたりとも!」


 ふたりして大泣きした。


 だって怖かったもん。



◇◇◇



「さっきはすまなかった。正直に言うべき、だと思ってな……」


 リューカさんが申し訳なさそうに背中を丸めている。


 隠さずに教えてくれたことは本当に、嬉しい。

 

 リューカさんはそういう人なんだろう。


「それに、黒神教はまだ各地に残っている。

 また君たちを危ない目に合わせたくはないからな」


 リューカさんは黒神教に怒りを感じていた。


 それは今回の事件だけが理由じゃないように思えた。

 

「それで、どうだ。


 ……私と一緒に来るか?」


 眉尻を下げて、自信なさげに問いかける。

 

 グレアと見つめ合う。

 

 グレアがどうしたいかなんて、今更口に出さなくてもわかる。


 わたしはうなずいた。


「……はい!リューカ様。ぼくとヴィオラを連れて行ってください!」


「リューカさん!よろしくお願いします!」


 わたしたちふたりは満面の笑みを浮かべていたと思う。

 グレアにいたっては少し涙ぐんでいたかも。


「……少しむず痒いな。もう少し砕けてもらってもいいか」


 リューカさんがなにか酸っぱいものを食べたような顔をしている。


 そうかな?

 

 ……あ!いいこと思いついた!


「グレア」


 グレアを呼んで、耳に手を当てる。


 わたしの提案を聞いたグレアはすこし恥ずかしそうだが、概ね賛成みたいだ。


「んじゃいくよ。せーの……」


「「リュカねえ!」」


「……はぅ」


 リュカ姉は、お姉ちゃんという言葉に弱いみたいだった。



 こうしてわたしとグレアは、銀翼の騎士団副団長こと、リュカ姉に拾われるのであった。

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