第11話 むかしむかしの話

《リューカ視点》


◆◆◆



 これは、創造神が存在していたとされる時代の話。

 昔々、人々から恐れられたひとりの少女がいた。


 名を『ファヴィオ』といい、白金に輝く長い髪、すべてを見透すような青の瞳、この世のものとは思えないほどの美貌を持ち合わせていた。

 

 その可憐な容姿からは想像ができないほどの特異な力を持ち、少女の周囲には、底が見えない穴のような漆黒が纏わりついていた。

 

 少女が触れたモノはみな、精気を失い、まるで魂が抜け落ちたかのように変わり果てる。

 その特異な力は創造神でさえ手の打ちようがないほど、強大な力であった。


 いつしか少女は『黒の女神』と呼ばれるようになった。


 黒の女神を討伐するべく、人々は救済を求めた。


『金の聖樹 ツァーテル』


『風の精霊 フィニアルタ』


『土の竜人 ドラグニ』


『水の虚像 ゼラフ』


 そして、『炎の剣聖 アストレア』。

 

 知らない者はいないと言われる強者たちであった。


 しかし、彼ら強者の力をもってでさえ、黒の女神の討伐は成されなかった。

 

 誰もが絶望に苛まれるなか、炎の剣聖アストレアは諦めることなく立ち上がった。

 

 そうして、炎の剣聖アストレアの活躍により、黒の女神討伐は成された。


 彼ら強者には、創造神から『五大神強』の称号が与えられ、神となり、各地の守護者となった。


 炎の剣聖はいった。


「少女は自らの力にもがき苦しんでいた。我は少女の願いを聞き届けたまでのこと」


 そうして炎の剣聖アストレアは、黒の女神ファヴィオが眠る大地を、生涯に渡って守護し続けた。



◇◇◇

 


「……まあ、おおまかに話したが、これが『炎の剣聖、黒の女神』の大筋だ」


 私はふたりの少女を見やる。


 ヴィオラ。


 白金の輝く髪、淡い空のような青い瞳、まだ幼いが、この世のものとは思えないほどの美貌。


 そして『心を感知』するという異能。


 グレア。


 アストライアという名前。

 燃えるような赤い髪。

 異能発動時に、紅蓮の炎のように煌めく瞳。


 ただの偶然と言うには、いささか都合が良すぎる。

 

 それにグレアの異能に関しては、心当たりがある。


「グレア。君の異能に似た能力を持っている人物を知っている」


 私の声にグレアが背筋を伸ばして反応する。


「我らが銀翼の騎士団団長、がおそらく同じ異能を持っている」


「えっ?」


「その異能の名はな、『剣聖の加護』というそうだ」


「……剣聖、それにアストレア」


「フッ、察しがいいな。


 そうだ。我らが団長は、『炎の剣聖アストレア』の正統な子孫だ。


 そしておそらくグレア、君はアストレア家の遠い血縁だろう」


「……」


 グレアが固まってしまっている。

 しまった。子供に言うにはまだ早すぎたか。

 

 しかし、今回の黒神教事件についての全容を聞かねばなるまい。


「申し訳ないが、君の記録や奴隷として売られた経緯もすべて調べさせてもらった。黒神教師の奴らは君の異能を知って、高額で買い取ったのだろう」


「…………ぐすっ」


「……はっ?」


 しまった。


 グレアの目に涙が溜まってきている!


 ど、どうすればいい!?


 私が内心非常に慌てているなか、ヴィオラが優しくグレアを抱きとめていた。


「ねぇ。もう少し、グレアのことを考えて話して」


 ヴィオラの青い瞳が私を縫い付ける。


 本当にその通りだ。


 事件の全容を明らかにすることばかり意識して、目の前の少女のことを気にかけていなかった。


「……申し訳ないことをした。ヴィオラ、グレア。すまなかった。配慮が足りなかったようだ」


「……ぐすっ、いえ、いいんです。いつかは向かい合わないといけないことだと思うので」


「……グレア」


「ヴィオラ、ありがとうね。


 リューカさん、続きをお願いします」


 なんという気丈な少女だろうか。


 強い心を持っているな。


 隣で寄り添ってくれる存在の強さのおかげでもあるか。


 ……こう言われては続けるほかあるまい。


「……わかった。では続けるぞ。

 黒神教の目的は黒の女神の再臨だ。剣聖の加護があれば、黒の女神を再臨させることができると考えたのだろう」


 集めた異能持ちの子供たちの名簿を見たが、どうやら剣聖の加護に似た異能ばかりを集めていたようだ。


 そして、名簿に記載されていない特徴を持つ少女がひとりだけいる。


 さて、ここからどう話すべきか。


「……ヴィオラ。話を聞いて何か感じたことやことはないか」


 ヴィオラが首をこてんと傾げる。



「……わたしって黒の女神様?」


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る