第10話 銀翼の騎士②

《リューカ視点》


 黒神教の連中はすべて捕縛された。

 ただ、教団連中とをしたが、どうやら幹部が街でなにやら活動を起こすらしい。

 

「ふむ、厄介だな」


「ええ、本当にタイミングよく逃げましたね」


「それもどうやらこの2人が関係しているらしい」


「……だからここから動かないんですか?」


 キオリから怪しげな視線を感じる。


「ああ、そうだ。2人の意見を聞かねばならない」


 これは副団長である私の仕事でもある。

 ……それだけが理由じゃないことはキオリは察したらしいが。


「……わかりました、では、ここはリュカにお任せします」


「……相変わらず嫌味なやつだな」


「先輩も相変わらず可愛いものが好きなようで」


「ん゛っ」


「それでは」


 キオリが救護テントから出ていった。


 いつからあんなに生意気になったんだ。


 まあ、それでも2人だけの時しか見せない顔も、信頼してくれているようで嬉しくはある。シャクだが。


「んぅっ……」


 少女が眠るベッドから悩ましい声がした。


「目を覚ましたか!!どこか痛いところはないか?一応、治療魔法で応急処置は終えたし、傷も残っていないはずだ。もう1人の赤毛の女の子も無事だぞ、隣のベッドで眠っている。あとでゆっくりお話するといい。黒神教、あ、さっきの怪しげな仮面の連中だが、すべて捕らえることができた。ここも治療が行える救護テントだ。安心して休むと良い。それとなにか欲しいものはあるか?飲み物や食べ物は味気ないものしかないが、毛布や暖を取ることができる魔石ならある。存分に使うと良い。それと、


「おねえちゃん、さっきの騎士様?」


 はうっっっ!!

 

 私はわけもわからず胸を押さえてしまった。

 心臓を握り潰されてしまったようだ、なんという破壊力か。

 まん丸でガラスのような、淡い青の瞳が私を写す。

 そして、おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃん……


 ……はっ!!!


「すまない、自己紹介が遅くなってしまった。私はリューカ・シェーバル・フェリス。好きなように呼んでくれて構わない。銀翼の騎士団の副団長を務めている。……君の名は?」


 首を傾げる少女。サラサラな白金の髪が肩を撫でる。撫でられたい。


「……ヴィオラ。グレアがつけてくれたの」


 泣きそうな、嬉しそうな、悲しそうな、そんな複雑な表情を浮かべていた。


「グレア……そちらに寝ている可憐な少女のことか。はて、しかしつけてくれた、というのは……」


「わたし、記憶がないの。それで、グレアが名前をつけてくれたの。すごく気に入ってるんだよ?それでね、一緒にみんなを助けるために、銀翼の騎士団に助けを呼びに行こうって」


 なるほど。だから2人だけ外にいたのか。なんとも勇気がある2人だ。

 それにしても、記憶がない、か。


(偶然とは言えないな)


 ヴィオラの容姿は、物凄く整っている。

 それとこの辺りでは珍しい白金色の髪に淡い青の目。


(古い文献に記される《黒の女神ファヴィオ》の特徴と酷似している、か)


 やはり調べる必要がありそうだ。

 

 まあ、いまはそんなことは置いておいて。


 私はヴィオラの柔らかい髪を撫でる。


「2人ともよく頑張ってくれた。おそらく教団連中は君たちを探していたのだろう、外に広く散らばっていて拠点の場所がわかりやすかった。2人のおかげで調査が早く済んだと言っても過言ではない」


 撫でられるのが気持ちいいのか、褒めてもらえて嬉しいのか、あるいは両方か、目を細めてにへらと笑う。


「しかしな、物凄く危険でもあった。ヴィオラはわかっているか?」


「……はい。でも!グレアと力を合わせれば、脱出できると思って……結局危ないところを助けてもらうことに」

 

 どんどん言葉じりが下がっていく様子を見るのは凄く楽しいんだが、今はそんな場合じゃない。


「わかっていればいいんだ。次からはもう少し考えるように」


「はい。あの、助けてくれてありがとう、ございました。グレアともっと仲良くなりたかったから、ほんとうに良かった……」


 陶器のような白い頬を涙が伝う。

 何をしても絵になるな、この子は。


「よろしい。……『力』か。言いたくなければ言わなくていいが、ヴィオラ、君の異能はどういった能力だ」


 ちょこんと首を傾げて口をぱくぱくしている。

 え、なに、かわいい。


「えっと、えっとね、心を感じる異能、だと思う」


「今のところは?」


「わたし、目が覚めるまでの記憶がなくて、目が覚めたときには封印魔術をかけられてた。それで、頑張って少し異能が使えるようになったんだけど、たぶんまだ封印魔術残ってると思う」

 

 ヴィオラが手を開いたり閉じたりしている。確認しているんだろう。

 ふむ、封印魔術か。頑張って解除できる代物ではないのだが。


「封印魔術を解除するためには、街の魔術協会に行かなくてはならない。それまではすまないが我慢して欲しい」


「…はい」


 素直で良い子だ。しかし何か言いたいことがありそうだ。

 

「ききたいことがあるならなんでも聞いてくれて「ヴィオラ!!!」


 隣のベッドでグレアが跳ね起きる。思いの外元気そうだ。私はそっと胸を撫で下ろす。


「グレア!」


「ヴィオラ!!良かった!!」


 2人がひしと抱き合う。治療しているとはいえ、怪我人には変わらないのだが。

 それでも2人が崩れるように抱き合っているのを見ると、間に合って良かったと心から思う。

 

「私はリューカ・シェーバル・フェリス。銀翼の騎士団副団長を務めている。……体は如何だろうか。治療魔術は施したので怪我はないとは思うが」


 先程は失敗した。今度はきっちり自己紹介をせねば。

 抱き合っていたグレアとヴィオラだが、グレアがこちらに気づくと、なんということだろうか、グレアは飛び退いて後退りしてしまった。

 ……今回はしっかり自己紹介できたはずなのに。


「あっ、あ、ぼく、グレア・アストライアっていいましゅ、助けていただきありがとうごじゃりましゅた!!」

 

 燃えるような赤毛を震わせ、猫のよう黒目を潤ませ、顔も真っ赤になってしまった。

 噛み噛みである。これはこれで良い。

 私は頬が緩むのを必死で堪えていた。感謝の言葉を述べているのだ、笑うと失礼極まりない。


「……ぷふっ、グレアっ、おかしいっ」


「……ヴィオラ!」


 ヴィオラは笑いを堪え切れなかったようだ。

 グレアがヴィオラの頬を引っ張っている。


 いいな、私もしたい。


 ヴィオラとグレア。

 容姿、性格はまるで正反対だが、まるで長年連れそった友のような空気を感じる。


(良い友だな)


 2人は今後、かけがえのない存在になるのだろう。

 お互いを思い合う2人を、引き離すことはできない。

 それにグレアも異能を持っている。

 

 あの血濡れた紅蓮の目。

 そしてグレア・という名前。


 限界まで酷使した弊害で気を失ったので良かったが、あのまま使い続けるとどうなったことか。

 あそこまでの異能は私は知らない。

 グレアもおそらく異能だろう。

 それも含めて話そうか。


「グレアと、それにヴィオラ。


》という昔話を知っているか?」

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