第9話 銀翼の女騎士

《リューカ視点》

 

 仮面を身につけた男の横腹に、鞘ごと剣を叩きつける。

 

「がっ、は」


 おっと。かなり吹っ飛んだな。

 かなり遠くの方まで激突音が聞こえる。

 私としたことが、思いの外腹を立てていたらしい。


(あと8人か)


 瞬時に周囲を見渡す。

 教団連中はこちらを警戒しているようだが、警戒の仕方があまりにお粗末だ。

 それに、なぜ大勢で外にいる。


(まあ、闘いの素人相手に言うべきではない、か)


 あの2人の少女は気を失っている。


(危険だな……)


 まずは障害を排除して、あの2人を安全な場所に移さねば。

 私は左耳の耳飾りに触れた。


『キオリ、敵の配置は確認した。只今より捕縛作戦を開始する。

 それと、救護班をこちらに向かわせてくれ』


 するとキオリから了承の意が返ってくる。

 

 さて、やるか。


 私は息を吸う。


「問おう。貴様らに投降の意思はあるか?

 先程は勢い余って小突いてしまったが。投降の意思があるならば、これより先は力尽くなどという野蛮なことはしないでおこう」


「だ、誰が!!!お前のような女に投降するものか!!」

「そうだ!!我ら黒神教くろがみきょうには、黒の女神の再臨という崇高なる目的があるのだ!!」

「なにも悪いことはしていまい!の騎士団なんぞに邪魔されてなるものか!」


 ふむ、口々にこうも喋られては騒々しいな。


 しかし、黒神教に、黒の女神の再臨、か。

 少々内情に乏しかったが、一歩前進というところか。

 だが、許せんな。


「アルタ・ルナ」


 私は詠唱し、手を縦に振り上げる。

 すると、真空の風の刃がまるで三日月のように地面を走る。


「あがっ!」

「ごはっ!」


 その衝撃に奴らは吹き飛び、背後の木に大きな音を立てて激突した。

 

「私を侮辱することは許そう。

 しかし、我が王より賜りし名を、侮辱することは断じて許さん」


 被害を免れた男たちの下半身が濡れる。


 怖気付いたか。

 フン、最初から投降しておけばいいものを。

 私は剣を剣帯に戻し、体に渦巻く魔力を鎮める。


「リューカ副団長っ、早すぎです」


 追いついてきたか。

 まあ、すこし気が急いたこともないこともない。


「これより調査に入る。教団連中は捕縛して馬車に詰めこんでおけ」


「「「はっ」」」


 騎士が数名、教団連中を捕縛していく。

 多少の抵抗はあるが、日々訓練している騎士には敵うまい。


「それと、おそらく中に異能持ちの子供たちがいるはずだ。救護班を送るよう本部には伝えた。優しく、怯えさせないよう丁重に保護しろ」


「「「はっ」」」

 

 私は目線を洞窟へやる。

 それで騎士たちは察し、素早く洞窟へ突入していった。

 

 私は2人の少女に近づく。


 2人とも意識がなく、地面に倒れ伏している。

 

 少女たちを運ぶために抱き起こす。

 2人の少女くらいなら、私1人でも運ぶことはできる。

 私は2人の顔を見た。


 いや、見てしまった。



「」



 愕然とした。

 言葉が出ない。

 

 遠目から見ても分かってはいたが、




 か、かわいすぎる……


 う、うわ、やばいやばい、やばい!!!!


 ど、どうしよ、こんなに可愛い生き物、見たことないぞ!?!?

 

 私はどうしたらいいんだ!?!?!?!



 ……とりあえず救護ベッドに運ぼう。



 私は、まるで無邪気な天使と、意地悪な子悪魔のような、相対する寝顔を浮かべる2人を抱えて救護テントへ向かった。


 もちろん、持ちうる力、魔法をすべて駆使して丁重に運んだ。

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