第8話 銀翼の邂逅

《ヴィオラ視点》


 通路を進むと洞窟の出口が見えてきた。

 外はどうやら夜みたい。真っ暗で何も見えないや。

 出口に立ててある松明のおかげで少し周りが見える、でも……

 

「っ!出口だよヴィオラ!!……変だね?」


 グレアも気づいたみたいだ。


「……うん。わたしの異能でわかる範囲にはがないや」

 

 わたしの異能は、50歩程度の範囲の人の位置がわかる。

 それでも反応がないってことは、出口周辺には人がいないということになる。


 そんなのおかしい。

 

 出口には監視してる人がいるはずなのに。

 

 仮面の人たちはそこまで考えていない?

 

 いや、そんなはずはない。あれだけたくさんの子供を攫ってきたんだ、多少なりとも警戒しているはず。


「グレア、どういうことだと思う?」


 グレアは首を傾げ、宙に目をやった。


「んー。なにか異変があって持ち場を離れたとか?」


「なにがあったんだろう。でも、人がいないのは幸運だったね」


 人がいた場合の対処法も考えてたけど、無駄になったみたいだ。


 わたしとグレアは並んで出口に進んだ。


 ……あっ!!!!!


「っ!!!」


「ヴィオラ?なにかあった?」


「……人の反応がたくさん!まっすぐこっちに来てる!たぶん走ってきてる!!」


「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!?」


「向こうは待ってくれないよ!!とりあえず隠れないと!!」


「み、未来視!」


 グレアの目が紅蓮の宝石みたいにひかる。


 わたしも感知しないと!!


 わたしは異能に集中するため、目を閉じる。



    ズキッ



「いっ!?」


 異能を発動しようとした途端、脳天にすごい衝撃が走った。

 痛すぎてわたしはその場にうずくまってしまった。目を押さえて気休めに目をかばう。


 なにこれ、異能って使いすぎるとこうなるの!?


 聞いてない!!!!


「……ヴィオラ、ちょっと遠いけどあの草陰に……ヴィオラ!?ヴィオラ、ねぇ、ヴィオラ!?」


 グレアは未来視であそこに行ったのね。


 ん?驚いているってことは


 いや、そんなことよりまずはあっちに行かないと。


 やばい、体に力が入らない。


「ぐ、グレア。動けないよ!」


「え!わ、わかった!背中におぶさって」


 グレアが背を向けてしゃがむ。


「……んしょっ」


 わたしは力を振り絞り、グレアの背中によじ登る。


「……よし、いくぞ!」


 グレアがわたしを背負い、走る。


「はぁっ、はあっ、はぁっ」


 草陰まであと20歩といったところか。


「……ごめんね、グレア」


 グレアが頑張って走ってる。


 わたし足手まといだな。


「べつ、にっ!ぼく、たち


 と も だ ち でしょ!」


 グレアの横顔が見える。

 汗がしずくとなって頬を伝い、口で息をしている。

 

「……ありがとう」


「何、言ってんの、まだ早い、よ!」


 グレアは草陰をまっすぐ見て走ってる。


 暗くて地面がよく見えないな。


 突然、宙に浮いている自分に気づいた。


 瞬間、背中にものすごい衝撃が走る。


「かっ、は」


 わたしは盛大に地面に打ち付けられた。

 どうやら、グレアが小石を踏んでバランスを崩して転んでしまったみたいだ。


「ヴィオラ!!!」


 息ができない。

 

 グレアに返事できない。

 地面に倒れ伏したわたしは、朦朧とする意識の中で、徐々に近づいてくる大勢の足音を聞いてしまった。

 

 ……これはもう、ダメかもしれない。


「未来視!!!」


 グレアの叫ぶような、泣き喚くような声が聞こえる。

 軽く目を開き、グレアをみると、目がギラギラと血濡れたような光を放ち、血の涙を流している。


 ……グレア。グレアは諦めないんだね。


 すごいなぁ、グレアは。


 ……わたしはそこまで頑張りきれないよ。


 どうしてそこまでして……。


 大勢の足音が目の前まで迫った。


 やはり、仮面のひとたちみたいだ。


 グレアとわたしはもう、逃げることもできず殺されるのを待つしかないのか。


「ヴィオラをなくしてたまる、もんか!」

 

 そう、聞こえた。


 ……嬉しいなぁ。


 でも、仮面のひとたちはもう目の前にいる。


「くそ!!どうなってる!!!騎士団の連中にこの場所がバレてるじゃないか!!!」


 仮面のひとりがそんなことを言う。


 ……え?騎士団??


 突然、グレアが目を見開いた。


「……ははっ。ふふふふっ。


 ……そうか。ヴィオラ!ぼくたちはよ!!!安心して!!」


 助、かる?


 わたしたち、助かるの?


 仮面のひとたちが、なにやら叫んでいる。


 やばい。もう意識がもたないや。


「ドゴッ」


 突然おおきな音がして、仮面のひとりが吹き飛ぶ。



「遅くなってすまない、きみたちを助けにきた」



 朦朧とする意識の中で、まっすぐで凛とした女の人の声が聞こえた気がした。



「私はリューカ・シェーバル・フェリス。


 王より賜りしの名の下に


 貴様ら教団を、断罪する者だ」



 騒がしい喧騒の中でも、その風のような声はどこまでも聞こえるようだ。


 何者にも染まらない、鋼の心を感じとり、わたしは深い闇の中に意識を落とした。

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