第6話 黒神教

───アーレンバレス王国、東の森林のとある洞窟にて。

 

「それで、15番は見つかったのか!」


「監禁していた場所周辺は調べ終えました。ですが、これとっいた発見はなく……」


「クソッ、あれほどのは今までいなかったというのに!!高い金を払ってまで買ったというのに!!」


 幹部らしき男の甲高い声が狭い洞窟に響く。

 普段から感情の起伏が激しい性格ではあるが、よりいっそう激しさが増している。

 

 供物とは、それほど『』にとって、必要不可欠な存在であった。

 

「……今回の奉納の儀式はつつがなく終了しております。次回の儀式までに、また新たな供物を調達してまいります」


 仮面を身につけている信徒らしき男は、跪き、冷静に具体案を示す。


「クソッ、クソッ、クソッ!!……仕方ない、また奴隷市場に赴いて天能を授かっている供物を探すか。もう少し量を増やすとしよう」


 そう言いながら、幹部らしき男は松明で照らされた通路を歩き、出口に向かう。

 そんな後ろ姿を見た信徒は深く頭を垂れた。


「では、私は引き続き、愛しき信徒達と共に洞窟内を

 捜索いたします」


「……そうだな。お前に任せる」


 幹部らしき男は忌々しそうにこちらを振り返り言った。プライドが高いためか、逃げられたことに対する憤慨は忘れていないらしい。

 

 幹部の後ろ姿を見送った信徒の男は、振り返り、暗い通路を歩き、奥へと戻っていった。



◇◇◇



 この洞窟は、アーレンバレス王国が900年前に建国したときにはすでに存在していたらしい。建国当時から保存されている書記によると、「古い神」が残した遺物だそうだ。

 ただ、そういった古くから存在している洞窟や遺跡、人工物や自然物は無数に存在しており、数えれば枚挙にいとまがない。


 出入り口が一つしかなく、入ると通路が続く。

 通路を進むと、10人寝転ぶことができる空間があり、そこから枝分かれして通路が3本ある。その先には同じように広い空間が広がっている。

 通路のところどころに小さな横穴があり、まるでするような空間が存在する。


 長年の歳月をかけてできた自然物なのか、人の手によって作られたものなのか、もしくはなのか、知る者はいないだろう。


 そんな洞窟を活用する者は、一つの時代ごとに善悪関係なく存在していた。


 現在は『黒神教』と名乗る宗教団体が秘密裏な活動場所としている。活用方法が多数にとって善とは限らないが。


 広場にもどった男は周囲に目をやる。

 岩や壁に直接杭が打ちつけられ、その杭につながる鎖によって、達が虚な目で、またある供物は恨めしい目で男を見ている。


(フン、哀れな供物め)


 男は内心ほくそ笑む。

 天能を授けられる者たちは、運が良いのか悪いのか。

 いや、運、でいえば悪いのであろう。

 天能を授かった子が現れるのは1000人に1人いるかどうか。

 天能を授けられた供物達は、周囲の人間から忌まわしい存在として見られることが多い。


 親から気味悪がられ、捨て子や孤児になった者。


 誘拐され、奴隷として売られた者。


 稀に英雄として活躍する者もいるが、そんなものはただ運と縁が良かっただけだ。


 そんな哀れで劣悪な者達に、黒神教は供物としての存在意義を示している。


(我らが主、『黒の神ファヴィオ』様の糧となることができるのだ。さぞ光栄だろう)

 

 男はローブの内側の鞄にあるに触れる。


(この指輪のおかげでより効率的に奉納の儀式をおこなえる)


 この指輪は、触れている者の言葉を聞いた者の思考力を奪う力がある。抵抗もなく奉納の儀式をおこなえるのはありがたい話だ。

 この指輪は黒神教の教祖より賜った指輪だ。

 詳しいことはわからないが、なんでも奉納の儀式の最中に天より授かったモノらしい。

 

(さすがは教祖様。黒の神もお認めになられたようだ)


 今回の奉納の儀式は終了した。

 儀式は星の光が届かない夜に行われる。

 次の儀式は6日後といったところか。


「16番、17番。次の儀式は6日後だ。体をよく清めておけ」


「「はい。黒の神ファヴィオ様のために」」


 利口で従順な少女2人は身を清めるために奴隷の服を脱ぎ捨てる。

 まだ成熟しきっていないが、純朴な瞳、肋骨の上に薄く乗った柔らかそうな肉。穢れを知らなそうな四肢を上から下へじっくりと眺める。

 胸の中央の奴隷の烙印がよりいっそうそそられる。


(くそ、次の儀式で使わなければ俺が使ってやったのに)


 男は舌打ちをし、さらに奥へと向かう。


「コツン」

     

(……ん?なにか音がしたか?)


 男の歩く前方の岩陰で、ふいに石を蹴飛ばすような音がした。


「誰だ!」


 男は岩陰を覗いたが、特にこれといった異変は見当たらなかった。


(なんだ気のせいか)


 男は深く考えるでもなく奥へと歩を進めた。



 背後で見ているヴィオラとグレアの視線を感じることもできずに。

 

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